第26話 新しい相棒
「おじいちゃん、いるー?」
サーシャはレスト木材店へずんずんと入っていった。エリアとエルノーも戸惑いながら後へ続く。うたた寝していたところを連れ出されたエルノーはこっそりあくびをした。
「なんだサーシャ。じいちゃんは仕事中だぞ」
「こっちも仕事の話よ! エリアたちの杖を作ってほしいのよ!」
「はぁ? 杖だァ?」
突拍子もない話に親方は素っ頓狂な声を上げた。戸惑うのも無理はない。魔法の杖は魔石を組み込む関係上、魔法師の職人が作るものなのだ。
「おじいちゃんなら作れるでしょう? ほら、こういうのはどう?」
サーシャはそう言うと、部屋から持ってきた『魔法師ルビィ』の画集を広げた。ハードカバーのそこそこ分厚い本だ。幼い頃から何度も読んだのだろう、角が潰れて丸くなっている。開かれたページには木の棒にキラキラ輝く宝石が沢山ついた杖が描かれていた。素材の説明もついているが、かなり脚色されているようだ。
「先端のところを外せるような構造にすれば後で魔石を入れられるじゃない。おじいちゃんならできるんじゃないの?」
「まあ待て、杖ってのは振り回すんだろ? すぐ緩むような形じゃあ駄目だ。もっと根元から固定するような仕組みを考えなきゃなんねぇ」
「ミレアスにガラスのビーズを作ってもらいましょうよ! ここにこう、揺れるように付けたら凄く可愛いわ! 色は……そうねぇ、二人の目が緑だから緑が合うかしら。もっとカラフルにしても可愛いと思うけれど」
サーシャに絵を見せられてイメージが湧いたのか、さっきまで困惑していたはずの親方まで生き生きとしはじめた。このまま二人に任せていては可愛い杖にされてしまう。エルノーはすっかり置物と化してしまっているので、エリアが止めねばならない。
「そんなの付けたら邪魔になるってば! ジャラジャラ音がするのも嫌だし!」
「じゃあ埋め込むのは? それなら邪魔にならないでしょう?」
「む……そうだけど……できるの?」
「接着剤だけだとちょっと不安か? 真鍮線で固定すりゃ丈夫になると思うぜ」
そこまで言われると反論に困ってしまう。キラキラすると目立つからと言おうにも、もっと大きく派手な魔石が入るので、小さいガラス飾りなど誤差のようなものだ。
エリアが困ってエルノーに助けを求めると、エルノーは全てを受け入れたような穏やかな顔で微笑んだ。
「エリア、俺たちには美的センスが無いんだよ。あの二人は物作りを生業にしているんだから、もう任せてしまうのがいいんだよ、きっと」
「エルノーがそう言うなら……」
他のページをめくりながらああでもないこうでもないと議論を交わしている二人に、せめて最低限の希望を伝えようと声をかける。
「長く使いたいから落ち着いたデザインにしてね! お願い!」
「大人かわいい感じね! 大丈夫、似合うようにするから!」
自信満々に拳を握るサーシャに、不安を隠せないエリアであった。
*
それから数日、杖が完成したと連絡を受けて、二人はいそいそとレスト木材店へ向かった。
「楽しそうだね、エリア。あんなに心配そうな顔してたのに」
「まあね。心配がないわけじゃないけど、自分専用の杖はやっぱり楽しみだよ!」
デザインはお任せにするとしても、譲れない部分はある。魔力と相性の良い木材を選ばせてもらい、握りやすい太さの確認なんかも入念に行ったのだ。きっと魔法の杖として使いやすいものが出来上がっているに違いない。
店に着くとサーシャと親方が今か今かと二人を待っていた。早くお披露目したくて仕方がない様子に、思わず笑みが溢れる。
「いらっしゃい! 座って座って! 自信作が出来たわよ!」
「早速だがもう見せていいか? これなんだがよ」
テーブルには布に包まれた棒が二本置いてある。エリアたちがうなずくと、サーシャと親方は恭しく布を開いた。
「「わあ……!」」
思わず感嘆の声を上げる。そこにあったのは、想像よりもずっと上品な杖だった。
ウォールナットを使った本体は落ち着いたダークブラウンで、磨き込まれてツヤツヤだ。まるで二本の蔦が絡み合うようにねじれ、先端のガラス玉を包み込むように曲線を描いていた。このガラス玉は後で魔石と入れ替える予定だ。そしてその下には小さな緑色のガラス玉が五つ、控えめに留められていた。ともすれば武骨になりがちな木の杖だが、このガラスのおかげで華やかな印象になっている。かといって決して派手ではないのはサーシャと親方のバランス感覚のなせるわざだろう。
思わず黙り込んでまじまじと見ていると、サーシャと親方がソワソワと感想を尋ねてきた。
「すごくきれい! もっとキラキラしたのが来るかと思ってたからびっくりしちゃった!」
「俺もとても素敵だと思う。上品な仕上がりだね」
「大人っぽいのがいいって言ってたじゃない。お客様の要望は聞くわよ、もちろん。ガラス飾りは縁起の良い五つにしてみたわ!」
「握った感触も確かめてみてくんねえか? それが一番大事だからな!」
促されて振ってみると、とても軽く驚くほど握りやすかった。手の大きさに合わせてカーブがつけられた握り部分は、まさしくオーダーメイドだ。
「ここをひねって持ち手を外すだろ? それでこうねじるとだな……」
親方が二本の木をそっと回すようにずらしていくと、絡み合っていたのが分かれ、ガラス玉を取り外せるようになった。
「こうやって魔石を入れるんだ。無理に引っ張るんじゃねえぞ。手順通りにやりゃあ簡単に外せるが、普通に使ってりゃ緩むことはねぇからな」
これならば自分たちでも簡単に魔石の交換ができそうだ。凄い凄いと褒め称えると、親方は満更でもなさそうに「せっかくだから売り出してみるかな」と冗談めかして言った。
「二人の杖な、デザインがほぼ同じだろ? わからなくならねぇように飾りでも付けたらどうだ? ここに穴空けといたからよ。好きな紐でもリボンでもつけりゃいい」
下の部分に穴が空いているなとは思っていたものの、そんなことまで考えてくれていたようだ。エルノーの杖は左巻き、エリアの杖は右巻きにねじれているという違いはあるものの、確かにぱっと見では間違えるかもしれない。サーシャはどうしても揺れる飾りが諦められないようで、期待を込めた目でエリアとエルノーを見つめていたが、邪魔にならないものをつけようと二人は心に決めた。
「魔石を入れたら使い心地を教えてね。ちゃんと機能しているか気になるの」
「うん、もちろん! サーシャも親方もありがとう! 大事にするね!」
「気に入って貰えてよかったぜ。魔法師様の杖を作るなんて機会はそうそうあるもんじゃねえ。勉強になった」
「でもこんな値段で作ってもらっちゃって良かったんでしょうか。かなり手がかかっているし、普通もっともっと高いはずですよ」
魔法の杖はおそらく、かなり高い。買ったことがないため細かい金額はわからないが、魔法関係のものは総じて高いのだ。それを家具の装飾と対して変わらない工賃でやってくれたのだ。
「気にするこたぁねぇ。これが最初で最後だろうし、あんたらは"お得意様"だしな! 今後も『レスト木材店』をご贔屓に頼むぜ」
器用にウインクを決めた親方とサーシャに別れを告げ、エリアとエルノーは新しい相棒を大事に抱え家路についた。




