第24話 森と魔物の謎
「人が魔物を生み出すというのは、可能なのでしょうか」
長話になりそうだったのでひとまず手近な椅子に腰掛けると、ウォルトは唐突にそう切り出した。予想外の話に双子は思わず顔を見合わせた。
自由度の高い共鳴魔法であれば、二人が見たことのある魔物ならある程度形を真似たものを作ることはできそうだ。ただ、全てそっくりそのまま同じようにとはいかない。魔物についてはわからないことが多いのだ。そもそも魔法では生き物を作り出すことはできない。魔物が生き物と呼べるかどうかはともかく、今の二人の力では無理だ。
「多分、不可能だと思います。魔物は瘴気から発生するとは言われていますが、はっきりとしたことはわかっていないんです。そういう研究をしている魔法師がいないとは言い切れませんが、少なくとも表には出てきていませんね」
ウォルトは「そうですか」と複雑な表情でため息をついた。目線で先を促すと、言いづらそうにしながらも口を開いた。
「あなた方の家のそばにある魔の森、そこが二年ほど前までは普通の森だったというのはご存じですよね。私はあそこに魔物が出るようになったのは魔法師アルゴが原因ではないかと考えているのです」
思わぬ話に驚く双子に、慌てて「明確な根拠があるわけではありません。ただ、とにかく不審だったんです」と続ける。
「あの日――魔物が初めて出た日、私は仕事で森の近くの家を訪ねていました。あなた方の家からもう少し東へ行ったあたりですね。その帰り道、森から魔法師アルゴと、それを追いかけるように魔物が飛び出してきて……その魔物に襲われました」
ウォルトは何度もつかえながらも、何があったかを話してくれた。魔物の爪か牙か何かにやられて、気がついたら診療所に運び込まれていたということだった。生きながら体を引き裂かれ、さぞ恐ろしい思いをしたことだろう。魔物の姿はよくわからなかったという。
「助けに来てくれたのは見回りをしていた兵士でした。突然まばゆい光が見えて駆けつけたところ、血溜まりの中で倒れていた私を見つけたそうです。その時にはもう魔物も魔法師アルゴもいなかったとか。私が今生きているのは、彼らが持っていた魔法薬とオルネシア先生のおかげですね」
勇気を出して話してくれたウォルトを労りつつも、新たな疑問に首をかしげる。
「とどめを刺さずに魔物が消えたのは不思議だね。きっと兵士が見たっていう光が原因なんだろうけど」
「魔法師アルゴが消えたのも気にかかるな。状況からみて光を放ったのは彼かな?」
魔物は闇の瘴気から生まれ、光を苦手とするとされている。昼間に少し離れたところからでも光が見えたのなら、ランプはあり得ない。魔法によるものと考えるのが自然だ。
「魔法師アルゴに関しては本当に不可解でして、魔道具作りしかできないと聞いていたのですが、あの時彼は呪文魔法を使っていたように思うのです。気が動転していたのであまりはっきりとは思い出せませんが……」
「呪文魔法は苦手だから使えないことにしてた、ってことならわかるけどねえ」
魔法師にも得手不得手がある。じっくりと腰を据えて作る魔道具は得意でも、瞬発力が必要な呪文魔法が苦手というのはままあることである。だがウォルトにはアルゴを不審に思う理由が他にもあるようだった。
「あの後から森には魔物が出るようになってしまいました。魔法師アルゴ本人には何度も尋ねました。あの時森でなにをしていたのか。なぜ魔物に追われていたのか。なぜ私を置いていなくなったのか……。彼はかたくなに口を割らず、否定も肯定もしませんでした。そして終ぞ、亡くなるまで真相を語ることはありませんでした」
一言、関与を否定してくれればここまで疑うことはなかったのだが、悶々としているうちにアルゴが魔物を呼び出したのではと思うようになってしまったのだという。
「どうしても気になって、他の町の魔法師にも聞いてみたことがあるのですが、大抵鼻で笑われておしまいでしたね。それでちょっと……魔法師に対する印象があまり良くなく……お二人には不快な思いをさせてしまいました。申し訳ありません」
「それは……ごめんね。魔法師って結構そういうところあるから……」
「エリアさんが謝ることではありませんよ。あなた方は魔法師にしてはかなり普通……いえ、こう言っては失礼ですよね……! 魔法に関しては大変技術があると思うのですが、人格がまとも……常識的! そう、常識的な感覚をお持ちなのでとても話しやすいです!」
慌てて言葉を選ぶ様子に思わず笑ってしまう。やはりウォルトは真面目で、誠実なのだ。笑われたことに少し照れながらコホンと咳払いをし、改めて二人に向き直る。
「それで、お二人にはあの森のことを少し気にかけておいていただきたいのです。調査をしてくれとは申しません。そういうものは大規模な調査団を組んで行うと聞いていますが、私には兵士を動かす権限などありませんから……。もし外から見ていて気づいたことがあれば教えていただきたいのです。お願いします」
そう言って頭を下げるウォルトに二人は困惑の表情を浮かべた。元々森に入ろうかという相談はしていたが、それはあの鹿が気になってのこと。想像していたよりもずっとややこしい事情があの森にはあるのかもしれない。
「……成果は約束できないけど、覚えておくよ」
結局二人はアイコンタクトの後、明言を避けその場を後にした。




