第20話 役所のお仕事
その日、レプティス魔法店は朝からバタバタしていた。
「工具は?」
「積んだ!」
「魔石」
「いっぱい持った!」
「インクは」
「でっかい瓶にたっぷりあるし、ペンも五本持ったよ!」
普段の開店時間よりもまだかなり早い時間、眠い目をこすりながら魔導車に荷物を積み込んでいく。作業しやすい服にいつものローブを羽織り、双子は町役場に向けて出発した。今日は役場の魔道具の総点検をするのだ。
*
「ウォルトさん、おはようございます!」
「おはようございます。時間ぴったりですね。朝早くからありがとうございます」
「ウォルトさんこそ早いですね!」
「私はすぐそこに住んでいるので……」
役場に着き、守衛の兵士と話していると、中からウォルトが慌てて出てきた。
この町の人たちは割と時間に大雑把だ。双子は分刻みで動く王宮での暮らしに慣れているので時間を守るが、一時間や二時間遅れてくる人も珍しくない。ウォルトもまさか時間通りに来るとは思っていなかったのだろう。遅れてくるのを見越して朝早い時間を指定したのかもしれない。気まずそうにしつつも中へ案内してくれた。
魔導車から荷物を降ろし、ウォルトの後について歩く。普段は町民たちが手続きや相談に訪れ、職員たちが忙しく動き回っている町役場だが、休日の今日は誰もおらずガランとしている。珍しい光景にキョロキョロとあたりを見回していると、大きな会議室に通された。机の上には小型の魔道具たちが並べられている。
「動かせるものはこちらにまとめてあります。計算機の仕様書はこちらにありますのでご確認を。チェックシートを用意しておきましたので、点検内容と修理箇所、魔石の交換が必要でしたらその旨ご記載ください」
指示されなくとも書くつもりで紙を持ってきていたが、わざわざ用意してくれていたらしい。
「では私は帰りますので、あとはよろしくお願いいたします。念のため言っておきますが、帳簿など余計なものは触らないように。何かありましたら守衛にお声がけください。夕方になりましたら様子を見に伺います」
そう言うとウォルトは、印刷機などの動かせない大型魔道具や設備の位置の説明をしてそそくさと帰っていった。やはりあまり会話をしたくないらしい。とはいえ仕事に必要な事柄はしっかりと伝えていくあたり、つくづく真面目な男である。
「じゃあ早速!」
「やるか」
腕まくりをして、会議室に集められた小型――とはいっても一人では運べない大きさだが――のものから片付けにかかる。これらは税金の計算などに使う重要な魔道具たちだ。先に終わらせてしまうほうがいいだろう。
二人で何とか持ち上げてひっくり返し、裏のボルトを外して蓋を開ける。中には魔導回路を刻んだ金属板が何枚も並んでいた。複雑な回路なので一枚に収まらないのだ。
「普通の回路だ! よかったー」
回路板を一枚取り外したエリアがほっとした声を上げた。金属板には細かい文字が整然と並んでおり、間を繋ぐラインは幾何学模様のようになっていた。最近良く見ていたらくがきのような回路とはまるで趣きが違う。
「中央から持ってきたんだろうし、あの人は関わってないでしょ。――よし、ペンの用意できたよ」
「じゃあ早速いくよー。回路板Ⅰ、問題なし。回路板Ⅱ、あ、ちょっと薄くなってる。仕様書見てくれる?」
「いいよ。どこ?」
「回路板Ⅱの真ん中あたり、小型船のとこ」
「600万以上は回路Ⅳへ、だって」
「うん、大丈夫そう。ちょっと補修するね。――あー……ここの負荷のせいで魔石の消耗が早くなってるかも。一年持たなそうだから変えちゃおう。黄魔石取ってー」
「はい」
主にエリアが作業し、エルノーがチェックシートに記入をしていく。役割分担をして着実に作業を進めていくものの、いかんせん数が多く明日までかかるのは確実だった。どうせ今日中に終わらないのなら急いでもしようがないと、休み休みのんびり進めていく。
仕事中に休むというのはこの町に来てから覚えたことだ。むしろあまりにテキパキ作業を進めると、かえって相手を驚かせてしまう。一人だとつい集中してしまって休むのを忘れるが、二人だと互いに監視ができてちょうどよかった。
そうして持参した甘さ控えめのおやつを食べていると、なにやら外が騒がしいことに気がついた。遠くから鐘を打ち鳴らす音も微かに聞こえてくる。不穏な空気を感じ、二人は顔を見合わせた。
このまま見て見ぬふりをするという手もあったが、一度気になってしまうと何も手につかず、外へと出てみる。西の空に黒煙がもうもうと立ち上っていた。守衛の兵士に尋ねてみると、魚の加工場で火事があったらしいという。
「どうも魚を焼く魔道具から発火したようです。魔石の魔力が尽きるまで鎮火しないだろうと。野次馬の噂を聞いただけですので実際のところはわかりませんが」
双子はどちらともなく顔を見合わせ頷いた。魔法に関することであればどのみち二人に話が来る可能性が高い。ならこの段階で消火活動に参加したほうが良いだろう。
「様子を見てきます。もしウォルトさんが来たら伝えていただけますか。それと道具が出しっぱなしになっているので触らないように、と」
「承知いたしました。魔法師様に来ていただけたら皆安心するでしょう」
守衛に伝言を伝えると、二人は火事に向かって走り出した。




