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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第一章 新しい暮らし
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第17話 行商人との取引

「妙な鹿、ねぇ……」


 カロンを家まで送ったあと、魔導車に揺られながらエルノーとエリアは夕暮れの丘を上っていた。楽しく遊んできた帰りに面倒な話をして悪いなぁ、と思いながらもエルノーは昼間あったことを話す。


「目的が分からないのは怖いけど、敵意は感じなかったんでしょ?」

「うん。俺に言いたいことがあるのかなぁ。せめてもう少し何かジェスチャーでもしてくれればいいのに」

「あたしも見てみたいなー、デカい鹿! デカいってどのくらい?」

「縦は俺の倍くらいかな。胴の長さは更に倍くらいあるかも。それに角が物凄くデカくて」


 そこまで言ったところで「あれ」と違和感に気づく。


「あの角、多分横幅が魔導車三つ分くらいはあったと思うんだけど、森の中に入っていっても全然木に引っかかってなかったな」


 魔の森はなかなかに鬱蒼としている。大きな木の間に背の高い草や細い木もたくさん生えており、明らかに歩きづらそうだ。獣道があるのかもしれないが、それにしてもあの大きな角はどこかに引っかかるだろう、普通は。


「そういえば……歩く時何の音もしてなかったかも。うちの庭に入ってきた時も雑草踏んでたのに無音だった」


 そもそもあんなに近くに来るまで気づかなかったというのが異常なのだ。夢中で作業していたとはいえ、ガサガサ音がすればさすがに気がつく。


「実体が無いとか?」

「形ははっきりしてたからゴーストではないと思うけど……幻惑系だったらわからないかも」

「昼間に出てきたことといい、あんまり魔物っぽくないよね。もしかして精霊の類だったりして」

「ますますどうしていいかわからないよ……」


 闇の瘴気から生まれるという魔物に対し、光の魔力からは精霊が生まれるという。ただ、精霊はなかなか人前に姿を現さない。二人は一度も見たことが無かった。


「ねえ、森、入ってみない?」


 突然のエリアの提案にエルノーは驚いた。


「もちろんちゃんと準備してから! 浅いところまでなら行けると思うんだよね。エルノーだって気になるでしょ?」

「まぁね。こんなに近くに住んでるのに何も知らないのは気持ち悪いな」

「そうと決まれば早速準備だね!魔物がどのくらいいるのかはわからないけど、戦うんなら杖が欲しいなぁ」

「情報収集もした方がいいだろうな。今までに出た魔物の特徴を聞いてこよう。聞くとしたら兵士かな。教えてくれるといいんだけど」

「魔物が出始めたのが二年前でしょ? その前は狩りとか山菜採りとかで入ってたって話だし、地形とか詳しい人もいるかもしれないね!」


 久しぶりの冒険の予感に、緊張と高揚感で口数が多くなる。だがここでエルノーが大事なことを思い出した。


「あ! 畑作業途中だった! 鹿が邪魔してこなければ全部植え終わってたはずなんだけどなぁ」

「どこまで進んだの?」

「畝を作るところまでは大体終わってるよ。種を撒けば終わりだけど、結構数があるんだよね」

「じゃあ明日早起きして、お店を開ける前に撒いちゃおう! 畑にいたらまた鹿が来るかもね!」

「なんでそんなに楽しそうなんだ……俺はあまり会いたくないんだけど」


 一人で対峙するよりはマシか、とエルノーはため息をついた。


 *


 翌朝、約束通り二人で種蒔きをしたが、鹿は現れなかった。時間通りに店を開け、それぞれ作業をする。エルノーは魔道具の修理、エリアは新作の作成だ。

 工房に籠ってそれぞれ黙々と作業していると、来客を知らせる金属管のチャイムが音を立てた。それと同時に魔導車の駆動音も聞こえる。この町で魔導車を持っている人は珍しい。誰だろう、と店に向かうと、程なくして雑貨屋のローズ婆さんと壮年の男が入ってきた。


「おばあちゃん! いらっしゃい!」

「へえ、ここがあんたらの店かい。なかなかシャレてるじゃないか」


 ローズは一通り店内を見渡したあと、「開店祝いだよ」と可愛らしい花柄のティーセットをくれた。初めて雑貨屋に行った際にエリアが買った小皿と揃いのもののようだ。


「ありがとう! これシリーズものだったんだね! ――ところでおじさんってもしかして」


 エリアが目を向けると、男は恭しく一礼した。


「やあどうも、魔法師様方。うちの母が世話になっているそうで」

「やっぱり息子さん! そっくりだねえ!」

「別に世話になっちゃいないよ。むしろこっちが世話してやってるのさ」


 男はローズそっくりの癖のある赤毛を揺らし、「挨拶とはそういうものなんだよ母さん」と反論すると、また双子に向き直る。


「改めて、行商人のロータスだ。注文をどうもありがとう。また魔法師様と仕事が出来るとは光栄だよ」

「魔法師のエルノーと妹のエリアです。こちらこそ仕入れルートを持っている方と早々に知り合えたのは幸運でした。色々と頼みたいものがあるので、よろしくお願いします」


 ロータスは近隣の町々を順に回って行商をしているのだという。本人が国外に出ることはまず無いが、伝手をたどれば色々と取り寄せることも可能だというから、実に頼もしい限りである。


「早速なんだが、前に頼まれていたもののうち八個は手に入れたので納品しても良いかな?」

「本当ですか!? ぜひ!」


 わざわざ魔導車に積んできてくれたというので、応接室に運んでもらう。


曇鏡花(どんきょうか)のつぼみ、白荊茸(はくけいだけ)銀樺樹(ぎんかじゅ)の若葉、火甘藻(かかんも)朝霧魚(あさぎりうお)の鱗、ルーンマロウの花弁、火車蜥蜴(かしゃとかげ)の尻尾、夜光苔だよ。それにマギ粉10袋、今回はこれで全部だ。水晶蜂の蜜蝋と雷鳴の実は少し時間がかかってしまって悪いね。今手配しているところだから、もう少し待ってくれないか」

「もちろんです。むしろこんなに早いと思わなかったので助かります。無理を言ってしまったのでは?」

「いやいや、わが町の魔法師様の頼みとあれば魔導車を飛ばしてどこまでも行きますよ。今後もどうぞご贔屓に」


 ロータスは芝居がかった仕草でおどけてみせた。




 品質を確認し、支払を行う。常識的な値段でほっとする。むしろ輸送費を考えれば安いのではないだろうか。在庫が潤ってニコニコしているエルノーに、ロータスがそっと問いかけてきた。


「ところで……"珍しいもの"が手に入ったら欲しいと思うかな」

「欲しいです」


 前のめりで即答するエルノーにロータスは一瞬たじろいだが、すぐにニヤリと笑った。


「では買ってくれるということだね。たまに面白そうなものと遭遇することがあるんだが、魔法素材は売るのがなかなか難しくてね。泣く泣く見送ってきたんだが、買ってくれるなら頑張ってみよう」


 ロータスは以前から魔法師アルゴの依頼で素材を調達していたそうだが、いつも決まったものばかりで"珍しいもの"には見向きもしなかったという。売れれば儲けは大きいが、そもそも売るのが難しいのが魔法素材だ。

 エルノーとしては素材はあればあるだけ作れるものが増えるので、どんどん仕入れてほしいと思っている。エリアも使えそうなものを溜め込む癖があるので、二人の家が物で溢れかえるのはそう遠い未来ではないかもしれない。




「ところでおばあちゃん、この辺って魔物が出るんでしょ? どういうのが出たのか知ってる?」


 取引の話が終わったところでエリアがそう切り出した。早速情報収集である。


「詳しいことは知らないねぇ。バケモノだってのは聞いてるが」

「僕も町を離れてることが多いんで良く知らないな」

「そっかぁ、残念」


 前線に出る兵士でもなければ知らなくて当然だろう。仕方がない、と思っているとローズが何かを思い出したように顔を上げた。


「詳しいこと知りたいなら役場のアイツに聞けばいい。なんて名前だったかねぇ、あのクソ真面目なガキ。金勘定が細かいったら」


 エルノーとエリアは顔を見合わせた。役人の知り合いは一人しかいないが、あの人だろうか。


「もしかして……ウォルトさん?」

「そうそう、そいつだよ! そいつが一番詳しいね! なんたって最初に襲われたヤツなんだからさ!」

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