第14話 お姫様の部屋
三日後の定休日、エリアは朝から張り切っていた。なんせ初めての友達の家に遊びに行くのだ。
エリアは友達がいない。周りは年上ばかりだったし、そもそもほとんどが仕事上の付き合いだった。当然ながら休日に遊びに行くということをしたことも無い。
エルノーはいつの間にかちゃっかりガラス職人のミレアスと仲良くなっており、それがエリアには大層羨ましかった。だから親方に孫娘の話を聞いた時に、とうとう同姓で同年代の友達ができるかもしれないと期待したのだ。
幸い孫娘のサーシャもエリアに興味があったらしい。珍しい魔法師だからか、あるいは都会から来たからという理由かもしれないが。ともかく一度話してみたら、明るく元気な彼女の勢いに乗せられてつい沢山おしゃべりしてしまった。とても楽しかった。きっとこれが友達というものなのだ。
数少ない手持ちの服の中から一番明るめなものを選ぶ。生成りのシャツにモスグリーンのベスト、グレーのスカートだ。ファッションに疎いエリアでも地味だということはわかる。旅のボロ着と仕事用の上品な服、作業着と寝間着しかないのは大問題だ。今度遊び用の服を買いに行こうと誓った。
ダークブラウンに染めた髪をいつもよりも丁寧に編み込んでいく。肩のあたりで切りそろえた髪は、長かった頃と比べると少々編み辛いが、普段の手入れは圧倒的に楽だ。聖銀で作られた枝の形の髪留めをつける。これで多少は華やかになったと信じたい。
「じゃあ出かけてくるから。ちゃんとご飯食べなよ」
「はいはい、ゆっくりしてくるといいよ」
エルノーに留守を任せ前日に市場で買っておいた土産の菓子を掴むと、エリアは意気揚々と外へと飛び出した。
*
レスト木材店の裏手にある屋敷までやってきたエリアは、魔導車を脇に止め、ドアベルを鳴らした。
さすがレスト一の材木屋の親方の家だけあってかなり大きい。もともと富豪の別荘だった双子の家と比べても遜色がないほどだ。
程なくして中からパタパタと足音が聞こえると、扉からサーシャが顔を出した。
「エリア、いらっしゃい! さすが時間ぴったりね!」
「こんにちは! お邪魔しまーす!」
サーシャに付いて二階へと上がる。家の中も木がふんだんに使われ、何とも落ち着く雰囲気だ。
サーシャが部屋のドアを開けるとそこは一面、白とピンクの世界だった。先ほどまでとは全然違う、まるで別な世界に迷い込んだような異質な空気に、エリアは思わず怯んだ。そんなエリアの様子を見て、サーシャはにやけながら「入ってー」と背を押す。
「すごいね……これがお姫様の部屋なんだ……」
家具はほとんどが白く塗られ、ベッドフレームはピンク。壁と床も白く塗られ、ピンクのラグが敷いてある。窓に掛けられたカーテンやベッドから垂れ下がっている布には、レースがあしらってある。
この空間においては、サーシャのヒラヒラとしたフリルが沢山ついている衣装も馴染んで見えた。
「かわいいね! こういうお部屋見るの初めてだから、びっくりしちゃった。サーシャの服も似合ってて可愛い! そういうのがお姫様の服なの?」
「ありがと! お姫様の普段着をイメージしてるの! ドレスでその辺をウロウロするのはさすがにちょっとね」
お姫様って普段着あるんだー、と思いつつもそういうものとして納得する。
キョロキョロと部屋を見渡していると、一角に異質なものが置いてあることに気がついた。机に鉄の何かがくっついている、魔道具だ。
「これは?」
「さすが魔法師様、気になる? これは魔道具縫製機よ。職場にもあるんだけど、家に欲しくって。おじいちゃんにお願いして王都で買ってきてもらったの」
「サーシャの仕事って」
「私、お針子なの」
サーシャは照れながら「まだ修行中だけどね」と言った。
「じゃあもしかしてその服って」
「自分で作ったのよ」
どこに売っているのか分からないような珍しいデザインの服だと思っていたが、自作なら納得だ。修行中だと言うが、素人のエリアからすると売り物にしても問題ないように思える。
「すっごい……服って作れるんだね」
当たり前の感想を呟いていると、サーシャは「魔道具作れる方が凄いと思うけどね」と笑った。
ぼうっと服を眺めていたが、意識がまたミシンへと戻る。そうすると今度は構造が気になってくる。
「気になるなら見てもいいわよ。下のペダルを踏むと針が動くの」
お言葉に甘えてじっくりと観察する。見たところ魔導回路で何もかも制御しているわけではなく、機械部品の組み合わせで複雑な動きをしているようであった。魔導回路を確認したいが、サーシャがいるために我慢する。
「中身って私は見ない方がいいんでしょう? ちょっと向こうに行ってくるわ」
「え!? いいよそんな。調子が悪くなったら見せてもらうから」
「そんなこと言って、目がキラキラしてるわよ! お茶淹れてくるからその間にごゆっくりどーぞ!」
そう言うとサーシャは部屋を出て一階へ降りていった。部屋主を追い出してしまった形になり気まずいが、せっかくの機会だ。机の下に潜り込み、蓋を開けた。




