第12話 レプティス魔法店、開店!
「商品並べ終わった!」
「掃除もこんなものかな」
「看板バッチリ!」
「結界も動いてる、よし」
空は快晴。風も穏やかに、新しいことを始めるには絶好の日和だ。
「「レプティス魔法店、開店!」」
慌ただしく準備をすること数日。ようやく双子はまた新たな一歩を踏み出した。
*
「お客さん来るかな」
初日なので二人で店頭に立ってはいるが、静かなものだ。町外れの丘の上、昼間とはいえ魔の森の近く、それも頻繁に通うような店ではないために、心配になってくる。
「来るでしょ。少なくとも知り合いは来るね! 来るって言ってたし!」
エリアも所在なさげにウロウロしながら知り合いの顔を思い浮かべた。数日前から開店の日を知らせてある。買わなくてもいいから遊びに来てほしいと言っておいたから、きっと来てくれるはずだ。商工会の前の掲示板には会長が手書きのビラを貼ってくれたし、カモメのくちばし亭でもお客さんに宣伝しておいてくれると言っていた。きっと誰かは来る。
不意にカウンターに置いた金属管のオブジェがカランカランと音を立てた。誰かが敷地内に入ってきたら音が鳴るように作った魔道具である。だらけていた二人はスッと背筋を伸ばした。誰だろうと緊張しながら待っていると、程なくして扉が開く。
入ってきたのは、身なりの良い中年男性だった。
「やあ、こんにちは。エリアさん、お久しぶりだね。この町に来てくれて嬉しいよ。お兄さんは初めましてだね。開店おめでとう」
「町長さん!」
「町長さん!?」
エルノーは町長と呼ばれた男性が開店祝いだと差し出した、立派な天馬蘭の鉢植えを受け取った。
「これは……過分なお祝いをいただきありがとうございます。ご挨拶が遅れまして大変失礼いたしました。私は魔法師のエルノーと申します」
「いやいや、こちらこそせっかくいらしていただいた魔法師様への挨拶が遅れたことをお詫びしよう。レスト町長のレクトール・ファステイルだ」
それを聞いてエリアは青ざめた。
「貴族様とはつゆ知らず、先日は大変失礼をいたしました!」
「そうかしこまらくてもよろしい。ファステイル家は男爵ではあるが名ばかりでね。しかも私は末子ときたものだ。気安く接してくれて構わないよ」
聞くとファステイル家は領地を持たず、それほど裕福ではないらしい。レストの町があるタラスロム領へ就職し文官として務めていたが、六年ほど前からレストへと出向しているそうだ。
とはいえ貴族は貴族、気を引き締める。
「聞いているとは思うが、レストは魔法師のことで色々と苦労していてね。二人が来てくれてとても感謝しているのだよ。聞くところによると、もう町の者たちと打ち解けているのだとか? 若くて気さくで可愛い兄妹が来たと評判だよ」
一体どんな噂になっているのかと二人は目を丸くした。
「私としては魔の森の近くに住んでくれているというのも有り難く思っていてね。もっと町を発展させようとなるとこちら側しか土地が無いのだが、皆森を恐れるのだよ。魔法師様がいるとなれば安心だろう」
こうもはっきり盾になれと言われると笑ってしまう。最初に戦闘は苦手だと伝えているはずなのだが。
「私たちも努力はしますが全てを守れるわけではありませんから、この辺りに人を増やすのであれば兵士も置いていただくようお願いいたします」
「それはもちろんだ。巡回を増やすなり避難所を兼ねた詰め所を建てるなりするつもりでいるよ。その時にはまた相談に乗ってくれたまえ」
町長は言いたい放題言った後、店の中を一通り見て回った。おもしろランプの一つ、光がくるくる円を描くちょっと目がチカチカするランプを手に取った。
「商品はあまり多くないのだね。これはなかなか独創的だが。魔道具にしかできない動きだ。明かりとしては少々うるさいな」
「ミスリル刃物店と共同作成したものです。店頭に並べるものは需要が多いものの他に、そういった一点ものの作品を並べようかと。そのほかは注文をいただいてから作成することになりますね」
「ふむ、では必要なものがある時は早めに言わねばならないな」
町長はランプをそっと元の位置に戻し、「ところで」と切り出してきた。どうやら買うつもりはないらしい。
「庁舎の魔道具たちを点検してもらいたいのだが、出来るかね? 税金の計算などに使う大事な魔道具もあるのだが、昨年は点検出来なくてね。早めに見てもらいたい」
「魔石交換の予約が詰まっているもので、すぐにという訳にはいきませんが」
「ではこちらも予約をしよう。日程の調整などは部下と話してくれたまえ」
用は終わったとばかりに町長が入り口のドアを開けると、そこには町長を送ってきたらしい兵士と役人が待っていた。更にその向こうには、入るに入れなくなっていた町民が遠巻きに中をうかがっていた。
「ウォルト君、私は庁舎に戻るが、魔道具点検の日程と詳細について詰めてきてくれたまえよ」
町長は若い役人に指示をすると、町民たちに「待たせてしまってすまないね」と声をかけ、兵士の運転する魔導車に乗って帰っていった。
エリアが「ねえ、エルノー」と小声で耳打ちする。
「町長さん、挨拶に行かなかったこと怒ってると思う?」
「どうかな。まあ一癖ありそうな人だとは思うよ」
「あたしもそう思う」
町長に対して思うところはあったものの、狭い店内が一気に客で賑わったため、ひとまず目の前のことに集中しようと気持ちを切り替えた。




