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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第一章 新しい暮らし
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第11話 双子星

 その日、双子の家は朝から屈強な男たちで賑わっていた。レスト木材店に発注していたものが出来上がったのだ。


「わーぴったり! さすがプロ!」


 運び込まれた棚を見てパチパチと拍手をするエリアに、親方も満更でもなさそうだ。

 ダークブラウンのクルミの木で作られたカウンターと陳列棚は、磨かれてツヤツヤと輝き木目も美しい。装飾は控えめだが重厚感があり、食堂の長テーブルと並べても見劣りしない。大きさも注文通りで、予定していた場所にきれいに収まった。

 元食堂にも既に作業台が運び込まれている。継ぎ目に引っかかる心配のない一枚板の作業台は、固定用の万力も備え付けてあり使いやすそうだった。書き物をする時のためのイスと、工具や細かい部品、設計図などを入れておくための収納棚も一緒に頼んである。


「納品完了だな。ここにサインをしてくれ」

「はい」


 支払いは先に済ませているため、受領書にサインをする。


「急いで作ってくれてありがとう親方!」

「いいってことよ。魔法師様の店を待ち望んでんのは俺等も一緒だからな! そろそろ店開けそうなんだろ?」

「うん! 保冷箱用の木箱も作ってくれてありがとう! 鉄板を貼ってもらったら売り物にするよ!」


 親方やミスリル刃物店の親子の協力もあって、少しずつ商品が充実してきた。これで何とか店の体裁が保てるだろう。オーダーでの対応がメインにはなるだろうが、店頭に何もないというのも寂しい。


「それにしても、こんだけのモンをポンと買えるってぇのはやっぱり魔法師様ってのは稼いでるもんなんだな。若ぇのに立派なもんだ」


 部屋を見回し感心したように呟く親方に、二人は曖昧な笑みを浮かべた。

 

 魔法師になるためには才能が必要だ。そして魔力を自在に操るためには努力と研鑽を積まねばならない。職業として独立できるほどの実力を持った魔法師というのは貴重な存在で、それゆえに稼ぎも良いのだ。

 エリアとエルノーはその中でも国の最高峰である王宮魔法師であったため、相当な額を稼いでいた。最もほぼ使うことなく魔法師協会の口座に預けっぱなしになっているが。今頃は口座を凍結されているかもしれない。

 そんな預金であったが、国を出る直前に不審に思われない程度の額は引き出してきた。王宮魔法師が一度に引き出しても不審に思われない額というのは、一般庶民のそれと比べて桁が一つや二つ違う。その資金を元にこのレストの町まで旅をして来たのだ。

 更に道中の町で空魔石を買い取り魔力を充填して売るという小遣い稼ぎもしていたため、実のところほぼ減っていない。


「今後とも贔屓に頼むぜお二人さん。この家まだ家具が全然無えじゃねえか。エリア嬢ちゃんの部屋をお姫様みたくしねぇか?」

「ふぇっ!? お姫様!?」


 エリアは唯一知っている”お姫様の部屋”を思い浮かべた。最高級の木材を使って国一番の職人が作った家具や、隣国から贈られたという美しい絨毯、宝石がふんだんにあしらわれたシャンデリア、マギシルクとスカイグースの羽根がたっぷりと使われた寝具など、とても庶民には手が出せないような品々ばかりだった。例え金があったとしてもおいそれとは売ってもらえないだろう。


「孫がそういうのが好きでなぁ。やれ、タンスは白にしろだの、ベッドはピンクがいいだのと色々と言うもんでな。わざわざ王都まで言って勉強したわけなんだが、この町じゃそういうの買うやつがさっぱりいねぇ。エリア嬢ちゃんはシティガールだろ? そういうの好きなんじゃねぇのか?」


 どうも親方の言う"お姫様の部屋"とはエリアがイメージしているものとは違うようだ。よく考えてみれば一般庶民が本物のお姫様の部屋を見る機会などまず無いのだから、空想上のものなのだろう。面倒を見てくれていた老婆が取り計らってくれていたおかげで"外"との交流もある程度はあったエリアだが、どうしても庶民の文化には疎い。


「あたしたち子どもの頃からずっと修行ばっかりであんまり外に出られなかったから、お姫様の部屋ってどんな感じなのかわかんないんだよね。でも興味あるかも」


 下手に知ったかぶりをするのは良くないと判断し、ある程度ぼかして正直に話す。才能のある子どもが囲い込みを受けるのは良くある話だ。親方は少し同情するような顔をして「魔法師様ってのもなかなか大変そうだな」と呟いた。


「それならうちに見に来るか? 孫には部屋片付けとくように言っとくからよ」

「いいの? 見たい! お孫さんにも掃除のお礼言いたいし、今度お邪魔するね」

「エルノー坊っちゃんはどんなのがいいんだ? 王子様か? そんなのがあるのかは知らねえが勉強しとくからよ」

「いやあ……俺はシンプルなのがいいかな……」

 

 王子様に対して良い印象がないエルノーは苦笑いを浮かべた。


 *


 工房へと帰る親方たちの後について、エルノーとエリアも魔導車を走らせた。ミスリル刃物店に頼んでいたものがそろそろ出来上がっているはずだ。


「おじさんこんにちは! 調子はどう?」

「よう、エリアちゃん! バッチリだぜ! 見てくれよこれ!」


 そう言って刃物店の親父――ミケロが完成した製品を奥から持ってきた。芸術的な形をしたランプが数点と、普通の形のランプ、小型保冷箱、水タンクなど、小型で使用頻度の高い製品たちを委託していたのだ。どれも打ち合わせ通りきっちりと作られ、新品の輝きを放っている。

 

 検品をするエリアを横目にエルノーも息子のミレアスと打ち合わせを始めた。魔法薬作りに使うガラスの容器を頼んでいたのだ。何度か顔を合わせるうちに、人見知りしがちがエルノーもすっかり打ち解けた。ミレアスは穏やかな気質のため、気が合うのだろう。

 

「やあエルノー君、頼まれていたものを試作してみたんだけど、見てくれないかな。フロストリーフなんて始めて触ったから上手くできているか心配だよ」

「無理を言ってごめん。できればフロストリーフを混ぜたガラス容器を使いたくて。うん、見た感じは良さそうだよ。持って帰って使ってみてもいいかな」

「もちろん。気になるところがあったら遠慮なく言ってほしい。それにしても不思議だな、火にかけても割れないガラスなんて。魔法師様しか手に入れられないような素材が山ほどあるんだろうね」


 フロストリーフ自体が特殊な場所に生えている植物であり、それを素材として使える状態にするのもそれなりに手がかかるものだ。普通はなかなかお目にかかる機会が無いだろう。


「ああ、それとアレも出来たんだよ。せっかく二人揃って来てくれたんだから、見てもらわないとね。エリアちゃんもちょっといいかな」


 なになにー、とエリアとミケロが飛んでくるのを見て苦笑いしながら、ミレアスは大きな丸いガラス飾りを取り出した。


「すごい……きれい……」

「うん、きれいだ。やっぱりミレアスくんにお願いしてよかったな」


 それは二人の店の看板だった。色ガラスと鉛で作られたステンドグラス。光が透けてキラキラと輝いている。


「なになに? 『レプティス魔法店』か。どういう由来なんだ? 名字、じゃあねえよな。出身地か?」


 看板を読んだミケロが尋ねる。双子は貴族ではないため、名字は持っていない。物心つく前に塔に連れてこられたため、出身地の記憶もない。


「レプティスはね、北にある星の名前なの」

「肉眼では一つに見えるけれど、望遠鏡でよく見ると二つの星がとても近くにある、連星なんです」

「あたしたちに似てるねって言ってくれた人がいたんだ。それをずっと覚えてて、それで」


 互いに引き合う双子星。二つで一つの北の連星(レプティス)


「なるほどな、ロマンチックな名前じゃねえか。だから星が二つあるんだな!」


 ステンドグラスには店名の他に星が二つデザインされている。その話を聞いてミレアスが入れてくれたのだ。美的センスに欠ける双子は、つくづくミレアスに頼んで良かったと頷いた。

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