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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第一章 新しい暮らし
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第10話 家の守り方

「うわー、変な回路ってこれか……」


 エルノーは修理依頼があった移動式魔導コンロを開けて呟いた。エリアから話は聞いていたが、想像以上に読み辛い。脳が勝手に解読を拒否するのだ。もっとも今回の依頼は魔石の交換であるため、ざっと目を通して破損が見受けられなければ良しとする。


 あれから数日後、早速商工会が取りまとめた魔道具の修理依頼がいくつか入った。ひとまず持ち運べるものだけ引き受け、設置型のコンロや蛇口などは今度対応することにした。生活必需品なので早くどうにかしてくれと言われてはいるが、こちらも生活の基盤が整っていないため急かされても困る。

 

 魔石の交換作業はひとまずエルノーが担当することとなった。魔道具関係はエリアの方が得意ではあるのだが、エルノーだって人並み以上には出来る。魔石の交換程度なら造作もない。それよりエリアには重要な作業があるのだ。

 

「ううん……やっぱり壁より境界……拒絶するというよりなんとなく入りたくないなーって思うような感じ……認識できなくしてもいいかなぁ……」


 エリアは今、家の周りに設置する結界の魔道具を作っている。そろそろ簡易結界の効果が切れる頃なので、しっかりしたものを作ろうとしているのだ。

 作業机がまだ出来上がっていないため、食卓に紙を広げてウンウン唸りながら魔導回路の下書きをする。売り物であれば広く普及している文言だけに留めるが、これは自宅用なので自由だ。せっかく好きに盛り込めるのだからあれもこれもとなり、なかなかまとめることが出来ずにいる。


「来てほしくないのはまず魔物ね。一定以上の魔力に反応するようにしようかな。あたしとエルノーは除外して。でもそれだと他の魔法師が入れなくなっちゃうか。いや別に入れる必要ないかな。あと熊とか猪とかも嫌だなー。大きい動物も入れないようにする? あーでも馬とかロバにも反応しちゃう」


 魔導回路は入れたい効果をいかに少ない文言でシンプルにまとめられるかが腕の見せどころだ。文字を増やせば増やすほど必要魔力は多くなり、間を繋ぐラインが長くなればロスが増える。できるだけ効率が良くなるように、まるでパズルのように組んでいく。それがエリアは抜群に上手い。


「泥棒とかも防ぎたいし、大きさで区別するのはちょっと難しいんじゃないかな」

「そうだよねぇ。例外を入れすぎると大きくなっちゃうし。全部弾いちゃうのが一番楽だけど、お客さんには来てほしいんだよね……」

「家と店は分けた方がよかったかな」

「それだと移動が面倒だし、結局店の防御で悩むことになるから大して変わんないよ」


 呪文魔法と違って魔道具はなかなか融通が利かない。その代わりに常に同じ効果が出るし、魔力さえ供給できれば長く持つ。それを面白いと思うか面倒だと思うかは魔法師それぞれだ。


 *


「でーきた!」


 下書きが完成したのは翌朝だった。開けた窓から朝日が差し込み、爽やかな風が吹き込んでくる。小鳥の軽やかなさえずりに気分も明るくなる。考え事をするには絶好の環境だ。

 なかなかうまくいかず真夜中になってもテーブルにかじりついていたところを、「このままだと"塔"のやつらみたいになるよ」と脅されベッドに放り込まれた時は文句の一つも言いたくなったエリアだったが、結局のところ寝るのが一番効率がいいのだ。


「やっぱりあいつらってばかなんだよ。ちゃんと寝てご飯食べなきゃ頭働くわけないよね」


 エリアは大嫌いな魔法師たちのことを思い浮かべた。いつも自分の研究のことしか考えていない、自分勝手で不健康なやつら。絶対にああはなりたくない。


「そう思うならちゃんと自分で休憩取りなよ」

「たまに忘れちゃうのは仕方ないよね。エルノーだって人のこと言えないでしょ」

「まあ……そうだけど」


 性格はまるで違うが似たもの同士な双子であった。


 


 回路は最終的に、認識阻害をメインに据えることにした。家に用があるものには見え、ただの通りすがりには見えず近づこうとも思わない、そういうものだ。これで大抵の魔物や野生動物を避けることができるだろう。虫や微生物まで弾いてしまうと困るので、手のひらよりも小さいものは引っかからないように書き加えた。

 その上で害意のあるものは拒絶するようにする。悪い人間に家を知られてしまってもこれで防げるはずだ。


 回路は当初の予定よりかなりシンプルになった。これならば何年も魔石を交換せずに使えるだろう。少ない魔力で動かせる効率の良い回路がパチッと組めた瞬間が、エリアは大好きだ。この瞬間のために魔道具師をやっていると言っても過言ではない。


 回路はムーン鋼で作った杭に刻むことにした。ムーン鋼は月の魔力を帯びた、とても硬い金属である。なぜこれにしたかといえば、二人がよく知る素材の中で最も硬いからだ。もっと頑丈な素材もあるというが、知らないものはイメージできない。イメージできなければ生み出せない。

 というのも、杭は魔法で作ることにしたのだ。町の者たちを信用していないわけではないが、一応二人は逃亡中の身だ。こんなところまで追っ手が来る可能性は低いが、念には念を入れ結界を張っていること自体誰にも知られないようにしたかった。


 参考資料としてエリアが描いた杭の絵とムーン鋼のナイフをテーブルに並べる。


「四角柱に四角錐をくっつけた感じだよね」

「中は空洞にしてね。魔石入れるから。ここは蓋にするからくっつけないで」

「わかった」


 形状を確認し、集中する。

 周囲の魔素が震え、形を与えられるのを待っている。


『鋼。ムーン鋼』

 

『ムーン鋼の杭』

 

『月の魔力を湛えし鋼』

 

『我らを守る鋼の杭』

 

『遥か遠く霊山の、深く深きに眠る鋼』

 

『高く険しい霊山の、月の魔力が鍛えし四本の杭』


 二人の声が重なる度に膨れ上がった魔力が、周囲の魔素を巻き込みながら収束していく。

 やがてテーブルの上に杭が四本現れた。どちらともなく息を吐き、力を抜く。


「結構疲れたな……」

「形があるだけでも疲れるのに魔力たっぷりだもん……」

「もう魔石と変わらないよこんなの」


 すっかり机に突っ伏してしまったエルノーだったが、エリアはまだまだやる気であった。


「ちょっとどいて。寝てきていいから」

「え!? 今から回路刻むの? 休んだ方がいいよ。まだ時間はあるし」

「ここまでやって放置するなんて気持ち悪すぎるでしょ! 今やる!」


 平気だと言うエリアを何度も休ませながら四本全てに回路を刻み終えたのは、もう夕方に差し掛かる頃だった。ここまできたら一気にやってしまおうと、杭の中に大きな魔石をはめる。蓋を閉め、家の敷地の四隅に穴を掘って埋めた。何事もなければ五年は持つだろう。


「エリア、おつかれ。これで農作業もやりやすくなるし、お店も開けるよ」

「疲れたー! エルノー、ご飯作って」

「色々適当に煮たやつでいい?」

「いいよ! 食べたら寝るー」


 これで一番気になっていたことが片付いた。明日から本格的にお店の準備をしようと意気込みながら、夕食の準備に向かった。

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