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私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま  作者: 無限大


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8/11

彩の家族

 彩が手術室に入って十時間以上が経過した。

 北斗は定期的に手術状況を聞きながら手術が無事終わるのを待っている。

 ただ、状況はかんばしくない。弱っていた心臓に鞭を打っているのだから仕方ないとはいえ、北斗は気が気ではなかった。さっきからずっと、スマホの電話帳をつけては消してを繰り返している。


「……っ」


 意を決して、北斗は通話ボタンを押した。


『はい、二階堂です』

「彩さんのご自宅ですか。突然すみません、彩さんの同級生の高橋と申します。実は――」


 それから一時間。

 手術待合室に彩の両親がやってきた。


「わざわざ連絡してもらって悪かったわね。貴方が高橋くん? 彩の様子は?」


 急な連絡に慌てる様子もなく、彩の母がゆったりと問いかける。椅子から立ち上がった北斗は頭を下げた。


「連絡が遅くなり申し訳ございません。彩さんはまだ手術中です。人工心肺からの離脱に手間取っているみたいで」

「つまりどういう事だ? 命の危険ということか?」


 父親の質問に北斗が医師として答える。


「いえ、心臓の回復を待って少しずつ進んでいくと思います。時間はかかるかもしれませんが、大丈夫です」

「時間がかかる?」


 母の目の色が変わる。


「まさか障害が残ったりするんじゃないでしょうね! だから私たちを呼びつけたっていうの?」

「いえ、そうではありません。ただ大きな手術ですから、ご両親にも待機して頂きたくて」

「私、嫌よ。介護なんて」


 母の言い放った言葉に北斗は耳を疑った。なんの心配をしているのだ。だが、父親も同調して続ける。

「介護が必要になるくらいなら手術なんて受ける必要もないだろう。まったく何を考えているんだ、彩は」

「本当よ。どれだけ他人に迷惑をかければ気が済むの」

「しかし障害の等級が上がれば貰える年金も増えるんじゃないか?」

「増えたって一万、二万の世界でしょ。冗談じゃないわよ。介護になったら割に合わないわ」


 これが彩の日常だった。それを目の当たりにした北斗は肩を震わせる。


「何の話をしているんですか! あんまりじゃないですか! 彩さんは今、元気になろうとしているんですよ! 頑張ってるんですよ!」


 声を荒らげた北斗を、両親はせせら笑う。


「頑張る? 私たちはあの子が生まれてからずっと頑張ってきたのよ」


 母が言う。


「貴方は私たち家族がどれだけ苦労してきたか知らないでしょう。私たちはね、もう三十年近くあの子に人生を奪われてきたの」


 隣の父も頷いている。


「そうだぞ。俺たちはずっと苦労してきたんだ。金ばっかかかって死ぬまで介護だなんて、俺たちの人生はどうなると思ってるんだ」

「本当、そうよね。いっそこのままあの子が死んでくれたら死亡保険金が入るのに」

「確かにな」


 両親がガハハと下品な笑いをする。


「なっ」


 カッとなった北斗が母親に掴みかかろうとした。


「なんてことを言うんだ!」


 北斗の手を父親が掴む。


「お前こそ何をする気だ!」


 男同士が取っ組み合いになり、母親はオロオロと後ずさった。北斗は彩の父の胸倉をつかんでいる。


「彩さんは今頑張ってるんですよ! よくもそんな事を言えますね!」

「うるさい! お前には関係ないだろう! 他人は引っ込んでろ!」


 怒鳴り声が部屋中に響く。それを聞いた看護師が数人、慌てて待合室にやってきた。二人を無理矢理引き離し、落ち着かせようとする。

 その時、室内の電話が鳴った。

 それは手術終了の連絡だった。


 彩は薬でまだ寝かされているが、手術は一応無事終了したとの事だった。

 本来ならばこれから家族に面会の時間を与えてもらえるはずだが、暴れていた北斗と両親に今日の面会の許可は出されなかった。当然だ。集中治療室で騒動を起こされるわけにはいかない。


 彩はこれから集中治療室で回復に専念する。

 北斗は経験上、彩が高度治療室を出られるようになるまでに数週間はかかるだろうと推測していた。


 彩が目覚めないまま、何日も何日も時間が経過していく。


 薬で眠ったままの彩。

 彼女の身体中からは色々な管が出ていて、頭上のモニターには彩の様子を知らせる数字が二十四時間カラフルに表示されていた。沢山の薬や機器で生かされている彩。もう何日も一進一退の状態が続いている。


 だがその間、彩の両親は一度も面会にこなかった。


 北斗は勤務日も休日も、一日も欠かすことなく彩の様子を見に行っている。

 薬の量が減ったとか、出血量が減ってきたとか、熱が下がったとか、そんな知らせが北斗は何より嬉しかった。

 北斗以外に誰も面会に来なかったと聞くと無性に腹がたったが、逆にそんな人たちを気にする必要など無いのだと考えを改める事にした。

 そんな人たちの元に彩は返さない。

 自分が彼女を幸せにするのだと、北斗は彼女の寝顔に誓うのだった。


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