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私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま  作者: 無限大


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3/11

乾杯

「かんぱーい!」


 駅前のビルの三階にある海鮮居酒屋に元気な声が響く。

 総勢二十数名の同窓会は、こじんまりとした居酒屋を貸し切っておこなわれた。


 彩は仲良しグループの女子三人と四人掛け席についている。

 隣のテーブルには昔チャラチャラしていた男子数人がスーツ姿で座っていた。すっかり落ち着きはらった彼らに時の流れを感じる。自分はこんなに成長しただろうか。彩はちょっと自信がなかった。一方、ギャルだったクラスメイトは赤ちゃん連れで顔を出し、赤ちゃんをひと通り披露して早々に帰っていった。和気あいあいとした雰囲気は、卒業後十年以上たっても変わっていない。


「彩、体調大丈夫?」


 友人たちが彩を気づかいつつ料理を取り分けてくれた。


「うん、たっぷり寝てきたし、今日は疲れる仕事をしないように気をつけてたから大丈夫!」

「そっか。でも無理しないで。辛かったら早めに言うんだよ」

「わかった、ありがとう」


 友人の怜奈は彩のウーロン茶のグラスに自分のレモンサワーをカチンと合わせ、ニコッとほほ笑む。怜奈の優しさも変わっていない。


「あはは! 怜奈、お母さんみたい」

「昔から彩の保護者だよね、怜奈は」

「まあね。まかせて」


 あはは、と笑いあう友人たちに囲まれて、彩はホッと息をついた。本当の母よりずっと優しいみんなの事が、彩は大好きだった。


(来て良かった)


 心からそう思えた。

 笑みをこぼした彩は、目の前の怜奈がニヤニヤと自分の顔を眺めている事に気付く。


「……何?」

「えー? いやあ、なんでもない。あー、えっと、私ちょっと向こうのテーブル行ってこよっと。じゃあね!」

「へ?」


 キョトンとする彩を無視して、怜奈はレモンサワーを持って立ち去ってしまった。移動するにしても早すぎない? と思っていると、頭上から男性の声が降ってくる。


「二階堂さん。ここ、良い?」


 その声に彩はドキッとして顔を上げた。


 見上げると、スーツ姿の男性が彩に向かって声をかけている。

 真っ黒のストレートな髪を後ろに流すようにセットした、さわやかな印象の男性。優し気な目元に穏やかな笑み。

 見慣れない顔だ。

 でも、なんとなく「彼」の面影を感じる。


「え、え……、高橋、くん?」


 彩は思わず息を飲んだ。

 優しそうな顔は中学時代と変わっていない。けれどその表情からは昔感じた自信の無さが消えていて、凛々しくなった顔つきに男らしい力強さがにじみ出ている。


「久しぶり、二階堂さん」


 大人になった高橋くんはそう言って白い歯をのぞかせた。


「ひ、久しぶり」

「ああ良かった。『誰?』って言われたらどうしようかと思ったんだ。覚えていてくれて嬉しいよ」


 高橋くんが彩を見つめながら、目の前の席に腰かける。目を細めた彼の笑いジワが印象的だった。


(高橋くんって、こんなに堂々と笑う子だったっけ)


 彼の成長ぶりにどぎまぎしながら、彩も微笑み返した。


「こちらこそ、会えて嬉しい。ほんと久しぶりだよね。卒業以来だもん」


 隣に座っていた友人たちは顔を見合わせる。息を合わせて立ち上がり、「私たちも向こうのテーブルに行くね」と席を離れてしまった。


「あ、ちょっと」


 あからさまに彩と高橋くんを二人きりにさせようとしているけど、高橋くんは気にしていない様子だ。

 彩を見つめて彼は言った。


「二階堂さん、会いたかった」


 会いたかった、という言葉の余韻をかみしめるように、高橋くんは彩を見つめたまま黙ってしまった。思い出のひとつひとつがゆっくりとよみがえってきて、中学時代よりずっと格好良くなった高橋くんに重なっていく。

 彩は思わず顔をそらした。


「ちょっと高橋くん、そんなに見られると恥ずかしいんだけど」

「ああ、ごめん。いや、そうだよね。僕の気持ち、何も伝えてなかったし」

「高橋くんの気持ちって」


 急にガヤガヤと店内のざわめきが大きくなった気がした。


(どんな気持ちだろう)


 はにかむ高橋くんを見ていると、彩はつい自惚(うぬぼ)れた事を考えてしまった。もしかしたら、彩の事を特別に想っているような、なにか、そんな気持ちなんじゃ……。

 ウーロン茶のグラスを両手で握りしめる。彩が様子をうかがうと、高橋くんはわずかに視線をそらして呼吸を整えた。

 落ち着いた彼が彩をまっすぐ見据えて言う。


「僕ね、小学生の頃から二階堂さんの事が好きなんだ」


 温かい言葉が風のようにブワッと彩の身体に吹き付けた。その優しい衝撃が彩の胸をくすぐる。

 高橋くんは彩の事が、好き。

 しかも小学生の頃から。

 高橋くんは目を細め、彩を見つめている。


「……え、と」


 これまで彩は、そんな事など一度も考えた事がなかった。誰かが彩を好きになる事なんて無い。家族にさえ(うと)まれるような、迷惑で、お荷物な人間だから。

 けれど高橋くんは照れたように笑って、彩に気持ちをしっかり伝えようと視線をそらさずにいる。

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