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私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま  作者: 無限大


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再会

 職場に向かうバスの中。

 心臓に難病をかかえる彩は優先席に座っていた。

 膝に置いた黒のカバンの上には赤地に白十字のヘルプマークが鎮座している。混雑した車内でこうして座っていられるのは、このマークのおかげだ。


(ここに居る人たちにも『座れて羨ましい』と思っているのかな)


 バスが曲がるたび、通路に立つ人のバッグが彩の肩にぶつかってくる。居心地の悪くなった彩は、朝の遥花とのやり取りを思い出してしまった。


(……いけない)


 彩は頭を小さく左右に振る。


(被害妄想だ。ちゃんとしろ、私。大丈夫、大丈夫)


 深呼吸して気持ちを整える。

 その間にカバンが震え、彩は中からスマホを取り出した。小中学校時代からの友人からLINEが届いている。


『おはよ』

『彩は今度の同窓会行く?』


 そのメッセージを見て彩は昨夜の事を思い出した。中学時代の同級生グループLINEで出ていた同窓会の話題に、彩は返事をしていなかったのだ。

 来週金曜の夜に行われるという同窓会。病気のせいで体力のない彩には、一週間の疲れがたまっている金曜の夜というのがとてもネックだった。


「体調次第かな」

「もうちょっと考える」


 彩はそう返信して仕事に思いをはせた。仕事が多くなければ、行けなくもないけど……。


『そっか』

『高橋くんは彩に絶対に会いたいって言ってたよ』

『行けるといいね』


「え?」


 不意に出た名前に彩はドキリとした。


 高橋(たかはし)北斗(ほくと)くんは小、中学校時代によく同じクラスになっていた男の子だ。


 艶やかな黒髪で、優しい顔をした大人しいタイプの子。常に自信がなさそうで、そのおどおどした感じが彩には勿体なく見えた。博識で優しく、誰に気付かれなくても責任持って係の仕事を完遂する彼は、目立たないけれど格好いいと思っていたものだ。


(高橋くん、今どうしてるんだろう)


 高橋くんと彩は中学校卒業後一度も会えていない。

 個人的に遊びにいくほどの仲ではなかったし、同窓会や成人式でも縁がなかった。彩の体調が悪かったり、彼の仕事の都合が合わなかったりしたのだ。


 ――絶対に会いたい。


 そんな事を言うなんて、高橋くんは急にどうしたのだろう。確かに今まで会えなかったけれど、絶対だなんて少し強い言葉な気がする。たいした仲でもなかったのに、なんだか気になってしまう。


『無理にとは言わないけど、行けそうなら行こ!』


 友人のメッセージに背中を押される。


「うん、そうだね」

「行けるように調節してみる」


 返信した彩は改めて仕事のスケジュールを考え始めた。


 それから二週間。

 仕事終わりの彩は同窓会の会場へと向かっていた。

 バスの窓に映る自分の顔は、ほんの少し血色が悪くやつれている。


(メイクは直したけど、やっぱりちょっとクマが気になるな)


 彩の心臓は生まれつき形がおかしかった。

 幼い頃に何度も手術を受けたおかげで大人にはなれたけど、普通の人より体力はなく制限も多い。

 疲れてくると血液循環が悪くなり息切れするので、仕事のあとの外出は正直不安だった。まして、疲れのたまった金曜日。無理をしたら倒れてしまうかもしれない。


(今日はお酒を飲まないようにしよう)


 少量の飲酒は許可されているけど、今日はやめておいた方が良いだろう。うっかり倒れてみんなに迷惑をかけるわけにもいかないし。

 そんなリスクを承知で参加を決意したのは、高橋くんの話を聞いたからだ。


(絶対に会いたい、か)


 ずっと会えていなかった高橋くん。だからこそ、彩も彼に会いたくなった。

 どんな人に成長しているのか、なぜそこまで彩に会いたいと思ってくれているのか、聞いてみたい。


 期待を胸に、彩は駅前のバス停でバスを降りた。

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