第二十二話 闇と光の闘い
✦✧ 第四章『光に照らされた道』のあらすじ ✧✦
王城で、光と闇が激突する。
そしてアリアは運命の選択を迫られ、揺るぎない想いを胸に光に向かう──
* * * * *
【10/21完結予定】
※ 作品のイメージイラストです。
白竜と黒竜が、崩れかけた謁見の間の上空で火花を散らすように激突した。
牙と爪がぶつかり、甲高い金属音のような音が響く。強靭な尾が石床を薙ぎ、瓦礫が宙を舞った。
ヘリオスはアリアの存在を背に感じながら、爪でガーネットの顎を弾き飛ばした。
黒竜はすぐに体勢を立て直し、唸り声をあげて飛びかかってくる。二匹の巨体が空中で絡み合い、天井を突き破り、青空の下へと飛び出した。
陽光が、白と黒の鱗をぎらぎらと照らし出す。
空を裂く轟音、吹き荒れる突風に、結界の中で見守るアリアは思わず両手を組んだ。
(ヘリオス……! 負けないで──!)
祈るように呟いた瞬間、ヘリオスが黒竜の咆哮を真正面から浴び、後方へ吹き飛ばされる。
翼で体勢を立て直し、岩壁に激突する寸前で急旋回した。地面すれすれを滑るように飛び、ガーネットの腹をかすめる一撃を放つ。黒い鱗が裂け、血飛沫が舞った。
「グルァァッ!」
ガーネットが激昂して炎を吐く。
真紅の炎が空を焼き、謁見の間の瓦礫が再び崩れ落ちた。だが、ヘリオスも負けじと口を開き、眩い白炎を吐き出す。光と闇、二つの炎がぶつかり合い、空中で弾けた。
轟音と共に衝撃波が四方へ広がり、アリアの結界がきしむ。
眩しさに目を細めたアリアの頬を、熱風が掠めた。
視線の先で戦うヘリオスの白い身体の至る所から、鮮血が滲んでいる。
(癒さないと……!)
アリアが思わず結界に手をかけた瞬間、ヘリオスの低い声が脳裏に響いた。
『動くな、アリア──!』
その声に胸が跳ね、結界の中で膝をつく。
この中で信じて待つしかないのだと、強く唇を噛んだ。
やがて、白い影が黒竜の首筋に食らいついた。
苦悶の咆哮をあげたガーネットが、地面に叩きつけられる。
謁見の間の壁が砕け、王家の紋章入りの紅い幕が落ち、土煙が上がった。
ヘリオスは大きく息を吐き、ガーネットを押さえ込むと、黄金の瞳を細めた。
(ガーネット……もう、終わりにしよう)
かつては、同じ空を翔けた仲間。
だが今は、アリアを脅かす存在でしかない。
最後の力を振り絞り、白竜の爪が黒い鱗を貫いた。
「ヘリオ、ド……ル……」
苦悶の表情を浮かべる黒竜の口から掠れた声が漏れ、光が弾ける。
ガーネットの漆黒の巨体は淡く輝き、静かに崩れ落ちるように消えていった。
残ったのは、風に舞う黒い燐光だけだった。
仲間だった彼女との記憶が、ヘリオスの胸に痛みを走らせた。
「ガーネット、すまない……」
ヘリオスは最後にその名を呼ぶと、静かに瞼を閉じ、しばしその場に立ち尽くす。
(ヘリオス……)
全てを見つめていたアリアの瞳から、涙が零れる。
ヘリオスはよろめきながら謁見の間へと降り立つと、人の姿に戻る。
──崩れ落ちた天井の隙間から青空が覗いている。
陽光が瓦礫の間から差し込み、粉塵の舞う空間を淡く照らしていた。
ヘリオスは深く傷ついた体を引きずり、結界の中にいるアリアのもとへ歩み寄る。
震えているアリアを優しい眼差しで見つめると、「俺は、大丈夫だ……怪我はないか?」と口にする。
結界が解けると同時に、アリアが駆け寄り、ふらついている彼の体を支えた。
「ヘリオス!」
膝をついたヘリオスの頬に触れると、アリアは震える手で祈り、癒しの力を込める。
淡い光が、彼の傷口を次々に塞いでいく。
だが、力を使うアリアの様子も変わっていった。
「アリア、やめろ……!」
どんどん青褪めていくアリアを制するヘリオス。
だが、制止の声も聞かず、アリアは最後まで祈り続ける。
ヘリオスの体中に刻まれていた傷は、全て塞がった。
「もう、これで大丈夫ね……」
そう言って微笑んだ彼女の体から力が抜けた。
「アリア!」
ヘリオスは慌てて彼女を抱きとめる。
呼吸はある──だが意識がない。
狼狽した金の瞳が、崩れた謁見の間を彷徨った。
その時、瓦礫の影の扉が開き、人影が現れる。
ジェイドだった。
「アリア! ヘリオス、大丈夫か……!?」
「ジェイド! 助けてくれ、アリアが……!」
ヘリオスは腕の中のアリアを強く抱き締め、ジェイドに向かって大声で叫んだ。
闇は去った──だが、ぐったりとして動かないアリアを抱いたヘリオスは、絶望の表情を浮かべていた。
力なく瞼を閉じ、ヘリオスの腕に抱かれるアリア。その銀の髪が、崩れた謁見の間を吹き抜ける風に揺れていた。
次回、第二十三話「光に包まれて」




