第二十一話 対峙するふたり
紅い光が広間を満たした瞬間、目の前が真っ白に弾けた。
反射的に瞼を閉じた私の体は、次の瞬間、強い腕に抱き寄せられていた。
「アリア」
低く鋭い声が耳元で響く。
その声に導かれるように目を開けると、金色の瞳が炎のように輝いていた。
「ヘリオス……?」
呼びかける間もなく、床が大きく揺れる。重い音とともに広間の柱がきしみ、天井の装飾から粉塵がぱらぱらと降り注いだ。
アデライド様──いや、ガーネットの紅い瞳がぎらりと光り、手に集めた魔力が槍の形を取る。
「その娘を渡しなさい、ヘリオドール!」
放たれた紅い閃光が一直線にこちらへ飛んでくる。
思わず悲鳴をあげかけたその瞬間、ヘリオスが腕を広げて私を庇った。
眩い白光が弾け、紅い閃光は霧のようにかき消される。
「ガーネット……もうやめろ!」
怒気を含んだ声が広間に轟いた。
彼の金色の瞳は、今にも炎を噴き出しそうなほどに激しく燃えている。
「どうして分からないの?! その娘は、カーネリアンの血を引く忌まわしい存在なのよ! 竜族は王を殺され、土地を奪われ、滅びかけている……全て、アダマスのせいなのよ!」
「アリアは関係ない!」
鋭く言い放つ声に、私の胸が震えた。
言い争う二人の間で、足が竦んで動けない。ただ必死にヘリオスの服を掴む。
──次の瞬間、彼が私の肩を抱き、耳元で囁く。
「お前のことは、二度と奪わせない──アリア、俺を信じてくれ」
低く囁かれた声が、胸の奥を熱くする。
彼が微笑むのと同時に、白金の光があたりを包み込んだ。
眩しさに思わず腕で顔を覆う。光が収まったとき、そこに立っていたのは──巨大な白い竜だった。
白い翼が広間を覆い尽くすように広がり、風が渦を巻く。
白金の光が床一面に広がり、淡い紋様が幾重にも重なって輝く。
光の壁が波紋のように立ち上がり、私の周囲を優しく包み込んだ。
(……結界……!?)
ヘリオスの声が頭の中に響く。
『アリア、そこから動くな。──俺が必ず守る』
その声に、胸の奥が熱くなる。
広間の空気が張り詰め、ガーネットもまた大きな黒い竜へと姿を変えた。
漆黒の鱗が光を弾き、ぎらつく紅い瞳がこちらを睨み付けている。
広間は静まり返り、私の鼓動だけが耳に響いている気がした。
白金と漆黒、二匹の竜が互いに睨み合う。
ガーネットの尾が床を打ち、火花のように魔力が散った。
『ヘリオドール、あなたは殺された王の末裔なのよ?! どうしてその娘を──!』
低く響く声が、結界の内側にまで届く。
ヘリオスは返事をせず、じっと相手を見据えていた。
次の瞬間、空気が張り詰める。
──動いた。
ガーネットの巨体が閃光のように滑り出す。漆黒の爪が床をえぐり、一直線にこちらへ迫ってくる。
思わず悲鳴を飲み込んだ瞬間、白銀の翼が広がった。
轟音と共に、白い閃光が放たれる。
黒い巨体が弾き飛ばされ、床を削りながら玉座を弾き飛ばした。
粉塵が舞い、広間全体が揺れる。
「……!」
私は両手で耳を覆い、震えながら目を閉じた。
やがて、かすかな唸り声と床を引っかく音が響く。
ガーネットはすぐに体勢を立て直すと、紅い瞳を怒りに燃やし、再び低く唸り声を上げた。
「ヘリオドール!!」
(怖い……でも、目を逸らしたらだめ。ヘリオスを信じなきゃ──)
震える膝を押さえつけるように、両手をぎゅっと握り締めた。
粉塵が舞い、耳鳴りが広間を満たす。
結界の外で白金の巨体が私を振り返り、金色の瞳が「大丈夫だ」と優しく告げるように細められた。
その一瞬だけ、胸の奥がじんと熱くなる。
次の瞬間、再び緊張が広間を満たす。
床に散った粉塵が渦を巻き、光と闇の魔力が互いにぶつかり合う。
(ヘリオス……どうか、無事でいて……)
息を呑み、祈ることしかできない私の目の前で、二匹の竜が再び睨み合う。
崩れかけた広間は、再び嵐の前のような静けさに包まれていた──
物語は、光に照らされる最終章へ──
次回、第二十二話「闇と光の闘い」




