表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/30

第二十話 金の瞳の青年

⚠ 挿絵入りのお話です。


挿絵(By みてみん)

※ 作品のイメージイラストです。

 開かれた扉の向こうに立っていたのは、白金の髪の背の高い青年だった。

 彼は私を見つめると、こちらへ向かって真っ直ぐに歩いてくる。


「アリア、無事か?!」


 聞き慣れた低い声に、私は目を見開いた。

 見下ろしてくる澄んだ金の瞳は、心配そうに揺れている。


(ヘリオス、なの……?)


 言葉は出なかった。

 でも、金の瞳の青年は真っ直ぐに私に歩み寄ると、長い指で頬を伝う涙を拭ってくれた。

 涙に濡れた頬に、心配そうに擦り寄ってくれた白い小さな竜の姿が重なる。


「どうして……その、姿は?」


「お前を助けに来たんだ……無事で良かった」


 見下ろしてくる金の瞳も、優しい響きの低い声も、間違いなく彼のものだった。


「ヘリオドール! 何故、あなたがここにいるのよ?!」


 そうわめいたアデライド様を、ヘリオスが真っ直ぐに見据える。


「ガーネット……“アデライド”というのは、お前だったんだな……」


「アリアは返してもらう」と睨みつけるヘリオスに、アデライド様が困惑と怒りの表情を浮かべる。


「……どうして、あなたが人間の娘を庇うのよ!? その娘は、憎きカーネリアンの血を引いているのよ? あなたの父と兄を殺した、あの卑劣な人間の……!」


 その言葉に、ひゅっと喉が鳴った。安堵していた胸が絶望の色に染まる。


(ヘリオスのお父様と、お兄様を……建国王が、殺した……?)


 手が、体が震えだす。突き付けられた真実があまりにも残酷で、息が上手くできない。

 視線を落としたまま、傍らに立つヘリオスを見ることが出来なかった。


「アリア、大丈夫だ……」


 震える肩を包むように、ヘリオスに強く抱き寄せられる。力強い腕とその温もりに、涙が溢れた。


「全て、知っている……」


 ヘリオスの低い声が囁くように落ちた。


「それなら、どうして?!」


「俺とアリアには関係ないからだ。……父上や兄上を殺したのは、アリアじゃない……!」


「ヘリオドール……!」


 真っ直ぐに言い放ったヘリオスに、アデライド様の柘榴石の瞳が激しく揺らぎ、紅い唇が噛み締められた。



挿絵(By みてみん)



* * *


「ヘリオス……」


 か細い声でそう呟いて、泣きながら見上げてくるアリア。その震える肩を抱き寄せた瞬間、胸の奥が焼けるように熱くなる。


(もう二度と、この手から離さない……)


 澄んだ空色の瞳からは止めどなく涙が溢れ、目は泣き腫らして赤くなっている。


「もう、大丈夫だ……俺がいる」


 涙を拭いそう告げると、アリアが震える腕でしがみついてくる。その細い体を支えるように更に抱き締めた。

 竜の姿と違い、触れることで彼女を傷つける心配はない。そのことが、安堵と同時に言葉では表せない感情を湧き上がらせる。


「ガーネット……アリアの父親を殺したのは、お前だな」


「……まだ、殺すつもりはなかったわ……カーネリアンの血を引く人間が、こんなに弱いだなんて思いもしなかったもの」


 そう憎らしげに呟いて、歪んだ微笑みを浮かべるガーネットを睨み付ける。


「アリアを、どうする気だった。……ジェイドは、どこにいる」


 そう問い掛けると、ガーネットの紅い瞳が見開かれた。


「あなたたち……一緒にいたのね?」


「だったら何だ。……ジェイドはどうしたと聞いている」


「わたくしの術に抵抗して、倒れたのよ……今は眠ってるわ」


 その答えに安堵する。ジェイドに好意を抱いているわけではないが、あの男が弱る姿など見たくはなかった。


「あいつにも手を出すな」


「何ですって?」


 ガーネットの紅い瞳が揺らぎ、怒りの炎が揺らめき始める。


「ジェイドには、これ以上何もするなと言っている」


 譲るわけにはいかない。腕の中で震えているアリアを、これ以上悲しませるわけにはいかない。絶対に──


 ガーネットは、怒りに揺れる瞳でこちらを見つめていた。


「お前は、カーネリアンの血筋を絶やすつもりで、こんなことをしたのか」


 俺の問い掛けに、ガーネットが愉快そうに声を上げて笑い出した。


「何がおかしい」


「まさか……カーネリアンの血筋だけじゃないわ……この王国全てを滅ぼすために、わたくしはここまで来たのよ」


 笑うのをやめたガーネットの瞳に、再び炎が揺らめく。


「この王宮に入るまで、苦労したわ……何百年もずっと、機会をうかがってきたの」


 低く呟いたガーネット。

 腕の中にいるアリアの恐怖が伝わってきて、一層強く抱き締めた。守らなければならない──そう思った瞬間、胸の奥に熱が宿る。


「憎い仇であるあの男に寄り添うのは、本当に苦痛だったわ……でも、アダマスを滅ぼす日を夢見て、耐えてきたのよ……」


「あなたなら、わかってくれると思ってたわ……」と呟いた赤い瞳が揺れている。

 ガーネットが竜の谷にいた昔から、彼女が人間を、アダマスを恨んでいることは知っていた。

 だが、数百年前に姿を消した目的が、これだとは……。


「俺は……昔から、この国には──人間には、関わるなと言ってきたはずだ」


 そう返した言葉に、ガーネットの紅い唇が歪んだ弧を描いた。

 「ヘリオドール……」と俺の名を呟いた唇から、泣き笑いのような声が落とされ、空気が凍る。

 紅い瞳が、一瞬だけ哀しげに細められ──次の瞬間、怒りで炎のように揺らめいた。


「あなたが、それを言うの……? その人間の娘を──アダマスの王女を、庇っているくせに!!」


 ガーネットがそう叫ぶのと同時に、その胸元に揺れる紅い宝石が禍々しい光を放ち、砕け散った。

 その瞬間、空気が凍りつき、紅い光が広間を満たしていった──

次回、第二十一話「対峙するふたり」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ