プロローグ ― 追放された王女 ―
『白き竜は、断罪された乙女に恋す』
― 追放から始まる王女と竜の幻想譚 ―
この物語は、追放された王女と白き竜が出会い、切ない恋と絆がそっと紡がれる、幸せな結末のロマンスファンタジーです。
※ 作品のイメージイラストです。
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◆ 連載初日は、プロローグから7話(1章終わり)まで投稿します。
翌日からは、毎日2話更新。10月21日に完結します。
◇ 約67,000字の中編で、プロローグ+27話+エピローグの全29話で完結します。
幼い頃、教育係から、竜は恐ろしい存在なのだと教わった。
だから、初代国王である建国王カーネリアン・アダマスはその強大な魔力によって悪しき竜の王を倒し、生き残った竜たちを辺境の谷へと封じたのだと……。
でも──
ある月夜の晩、枕元で母は優しく微笑んで、こう言ったのだ。
「アリア……悪しき竜など、どこにもいなかったのよ。真に悪しきことは、争い、傷つけること……。あなたは、優しさを忘れてはいけませんよ」
「……わるい竜は、いないの……?」
そう問い掛けると、母はほんの少しだけ、困ったように微笑んだ。
「そうね。……もしかしたら、悪い竜もいるかもしれないわね。でも、優しい竜もいるかもしれない……」
夜の寝室。淡い月光に照らされて、母の優しい声だけが響く。
「全てが、正しいわけではないのよ……あなたには、あなたの目と心で、真実を見つめてほしいの」
「竜に会ったら、わるくないって、わかるの?」
「わかるかもしれないわね……」
そう言った母は微笑み、そっと人差し指を唇に当てる。細められた空色の瞳は、優しく私を見つめていた。
「でも、このことは、母様とアリアだけの秘密ね……」
──ふと、我に返る。
目の前には、荒涼とした渓谷が広がっていた。草木はわずかしか生えず、黄土色に乾いた大地に砂埃が舞っている。
(──竜の谷……)
ここまで私を乗せてきた馬車は、私を降ろしてすぐに王城へと引き返した。ここにいるのは、私だけだ。
(お母様……)
乾いた風が頬をかすめ、遠くで何かが鳴いたような気がした。胸がひやりとしたが、私はこの先に行かなくてはならない。
『あなたには、あなたの目と心で、真実を見つめてほしいの』
──母の言葉を胸に、私は歩き出した。
この先で、何が待っているのかも知らずに──