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第9話「紗栄子さんは太田さんとお知り合いなの?」

第9話


「紗栄子さんは太田さんとお知り合いなの?」


 伶佳は一番聞きたかったことを聞いた。紗栄子は天然だ、何でも正直に話してしまうだろう。


「太田さんは当家に出入されている方ですわ。何をしておられるのかは存じ上げませんけれども父といつも親し気に話しておられますので私も気を許してお話しさせてもらっております」


 そう言った紗栄子の表情は恋をしている乙女のものだった。

 何故神戸家に仕える太田が嬬森侯爵家に出入りしているのか。伶佳の父との関係と同じような関係だとは考えられない。西条家の場合は佐島の別荘でたまたま釣りをしている太田と伶佳の父が知り合って釣った魚を持ってきてくれていたのだ。嬬森家の別荘は佐島には無かったはずだ。とすると東京での嬬森家と神戸家の付き合いなのだろうか。

 神戸家は華族ではないので、そこからの関係はあり得ない。特に嬬森家は侯爵家ではあったが格式が高く庶民が係わりを持てるはずかないのだ。


「そうなのね。親しくしておられるの?」


「ええ、週に二日はいらっしゃいますので、その度に私に時間があれれば一緒にお茶などさせていただいております」


 嬬森家当主がそれを許しているとすれば破格も破格のことだ。紗栄子は伶佳と違って一人娘で他に兄弟姉妹が居ない。その一人娘の話し相手を華族でもない神戸家の、それもただの使用人にさせているなんて伶佳からしても考えられないことだった。

 伶佳も正直な所、太田に好意を抱いてはいたが公爵家令嬢として太田を伴侶に迎えるわけには行かなかった。

 紗栄子と違い西条家は兄が継ぐことになるはずなのだが、兄に万が一のことが有れば伶佳が西条家を継ぐことになるのだ。その伶佳の伴侶として太田は相応しいとは言えなかった。


「そうなのね。私も最近別荘の方でお出会いしてお話しをするようになったのだけれど紗栄子さんが親しくされておられるとは存あげなかったわ」


 紗栄子の顔色が少し曇った。伶佳の性格を知っているからだ。それほど話し相手として太田に親しみを感じていたのだ。




 そこへ挨拶を終えた太田が戻って来た。


「伶佳お嬢様、紹介させていただきます。こちらが私の主人、神戸道隆です」


「はじめまして、神戸道隆と申します。お父上にはいつもお世話になっております。以後お見知りおきをいただければ幸いです。それにいつもこの太田がお世話なっておりますこと、重ねてお礼を申し上げます」


「そんな、太田さんにはこちらがいつもお世話になっているのですよ。お礼ならこちらが言わないといけませんわ」


 神戸は(わざ)と嬬森紗栄子のことを無視するかのように振舞っている。それは事前に十分伶佳の性格を把握しているためだった。伶佳の前で他家の令嬢を気に掛けた姿を見せると、途端に不機嫌になるのだ。

 ただ紗栄子はそのあたりのことには無頓着で神戸や太田が自分のことを全く気に掛けないことに少し不安がっていた。いつもの二人と違う、という思いだ。

 ところが逆に伶佳から紗栄子に話を振って来た。


「紗栄子さん、嬬森家にいつも太田さんが週に2回ほど来られると仰いましたよね」


「はい、ほぼ毎週来てくださいますのよ」


 そこで伶佳は悪魔のような微笑を浮かべた。


「そうなのね。では太田さん、嬬森家に行かれる日に代わりにうちに来ていただけるかしら?」


 紗栄子が『えっ』と言う表情を浮かべた。


「あの、伶佳お嬢様、それはどう言う意味でしょうか」


 太田が戸惑いながら問う。


「そのままの意味ですわ。週に2回、嬬森家ではなく当家に来て欲しい、ということです。神戸様もそれでよろしいでしょう?」


 太田もその主人である神戸も困った顔をしているが、ここで完全否定をすると伶佳の顔を潰すことになる。


「判りました。では両家の御当主とも少しお話をしたうえで、ということでよろしいでしょうか」


「では嬬森様に私が、この私がそう申しているとお伝えくださいませ」


 そう言い残して伶佳は別の人の待つテーブルへと言ってしまった。


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