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第4話 佐島の西条家の別荘には地下室がある。

 佐島の西条家の別荘には地下室がある。伶佳はいつもそこが目当てで来ているのだった。

 地下室には目黒の西条家本宅には置いておけない父の蔵書が多く所蔵されていた。父曰く『物理的に置いておけない訳ではない。海の近くに置いておきたい書物たちなのだ』ということだった。伶佳は厳格な父の冗談かもと思ったが、入室を禁じられていた地下室に入る術を発見してからは一人で佐島の別荘を度々一人で訪れるようになったのだ。




 ジリジリジリ。

 呼び鈴が鳴った。今日着いたばかりなのにもう客が来たのか。


「どちら様でしょうか?」


 相手は例の骨董屋だった。こんなところまで追いかけて来たのだ。ただ伶佳が呼んだことは間違い無かった。


「お嬢様はお出かけしておられますので、出直していただけますか?」


 祭は骨董屋を毛嫌いしていた。大切な伶佳を何やら可笑しな道へ迷い込ませようとしているとしか思えなかったからだ。


「お嬢様に呼ばれたんですがね。お嬢様がお帰りになられるまで中で待たせていただけませんか?」


 骨董屋は伶佳以外には横柄な態度が見えた。それも含めて祭は嫌っていたのだ。


「私は京極様がお見えになられることをお聞きしておりません。どうか出直してくださいませ」


 毅然とした態度に骨董屋は退散せざるを得なかった。




 伶佳は別荘を出ると海沿いに北西へ向かって歩いていた。別荘に来た時にはいつも歩いている道だ。

 少し歩くと左側にはヨットがたくさん並んでいる。西条家のヨットも1艘係留してあるが別荘の地下にも子船を係留してあった。

 十五分も歩くと砂浜ではなく岩がむき出しになっている海岸にでる。伶佳は波打ち際で腰掛けて海を眺めるのが好きだった。




「海はいいですね」


 伶佳が声を掛ける。そこには先客がいた。何度もこの場所に来ている伶佳には話をしたことはないが見知った顔でもあった。見かけからすると伶佳と同年代で、よく日に焼けた精悍な顔立ちの男だった。

 伶佳は意を決して今日、初めて声を掛けてみた。それは何かの確信めいたものや予感があったのかも知れない。


「そうですね。ああ、初めまして僕は太田新平と申します。お嬢様はどちらのお方で?」


「はい、私は西条伶佳と申します」


「もしかして近くに別荘がある西条家の方ですか?」


「ええ、西条家をご存知ですか?」


「そうですね、僕は本業ではないのですが釣りを少しやっておりまして、御当主様には取れた魚をお持ちさせていただいたことがあります。随分可愛がっていただいておりましたが最近はこちらにはお見えになっておられないようですね」


「父は最近少し体調を崩しておりましてからあまり外へは出ておりません。佐島にも随分来ていないのでしょう」


 それから少しの間二人は言葉を交わした。特別な話はなく日常的な世間話に終始していた。


「では、太田様、そろそろ失礼いたします。ぜひ今度私にも美味しいお魚を食べさせてくださいな」


「承知しました、では明日にでも天候が良ければお届けできると思います」


「よろしくお願いしますね」


 そう言うと伶佳は立ち上がり元来た道を戻って行った。


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