第18話「しばらくは、あれで大丈夫でしょう」
「しばらくは、あれで大丈夫でしょう」
伶佳は父監物が自分の邪魔をしないであろうことを確認していた。
「お嬢さま、大丈夫でしたか?」
「無名さま、何の問題もありませんわ。引き続きお願いします」
無名は西条家に来てからずっと蔵書庫に籠って自らが米国から持ち込んだ『無名祭祀書』の解読を続けていた。
無名羅都などという名前は勿論偽名だ。
無名祭祀書を齎したのでそのまま無名を名乗っただけだった。
「それで作業の方はどうなのかしら?」
「全てを解読しようとすると、相当時間が必要だと思われます。まだ百分の一も進んでおりません」
「それでは時間が掛かりすぎるわ。何かいい方法はないのしら」
「お嬢さまの目的に沿った部分だけを先行する、ということであれば解読そのものは1か月もあれば。ただお嬢様の目的に沿う部分を探し出すのにも数か月は必要かと」
「そんなに待てないわ。お父様にも話をしてしまったのだから、もっと早くに成果を出さないと」
伶佳の父監物は短気でありせっかちでもあった。
監物が伶佳の祖父から西条公爵家を継いでからは今のところ短気な性格が裏目には出ておらず、西条家は過去一番の繁栄を誇っていたのだ。
「判っておりますが、ドイツ語の古語をまず日本語に変換し、暗号の様にちりばめられている様々な召喚詠唱や召喚するために準備しなければならないもの、召喚してからの操る方法、束縛する方法、逆に送還する方法など完全に支配下とするには多くの事を学ばなければなりません」
「判っているわ。だから、それを、その方法を探しているのでしょう」
「そうです。ただそれらについては個々、全て違う方法や詠唱であることもご理解いただけるかと」
「それも理解しています。そして一番の問題はそもそも『無名祭祀書』には記載がないことも考えられる、というのでしょう?」
そうなのだ。解読が進んだり完全に終了したとしても、そこに目的の者の封印を解く方法が記載されていないこともあるのだ。
確かに『無名祭祀書』にはいくつかの旧支配者の封印を解く詠唱や準備するものが記載されている可能性が高い。
ただそれが伶佳たちの目的の者であるとは限らないし、確実の記載されているという確信は今のところ全くないのだった。
「それならどうすればいいというの?」
「そうですね、まず処々少しづつ解読しながら進めていくしかないでしょう」
「判りました。とりあえずしばらくはそれで行きましょう。成果が出なければまた別の方法を考えましょう」




