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第17話「来たか」

「来たか」


「はい、何か御用でしたか、お父様」


「いや、特に用があった訳ではない。ただここ数日お前の顔を見ていなかったのでな。祭に聞くと蔵書室に籠っているというではないか」


「そうなのです。とても重要なことで蔵書室を使わせていただいております。時間が勿体ないので、これで失礼しても?」


「まてまて。お前一人ではなく男と二人っきりで、と言うではないか」


 伶佳は日比呂の中で祭に毒づいていた。要らぬ告げ口を、と。


「蔵書室にある稀覯書の解読を手伝っていただいております。先日『無名祭祀書』を持ってきていただいた方なんです」


「なんだと?そんな話は聞いておらんぞ」


「お父様、我が西条家の悲願、お忘れですか?」


「なんだ、唐突に。勿論忘れてなどおらん。かの織田信長に我が西条家の祖である最上寺家が滅ぼされた復讐を果たさなければならん。忘れる訳が無かろう」


 西城家は元は最上寺家の傍流だった。本家である最上寺家が三十八代目当主最上寺伴宣とその一人娘最上寺霊歌の二人を織田信長の配下に殺されて最上寺の本家は絶えてしまっていた。


 傍流であった当時の先祖の当主が最上寺家から少し名前を変えて西条家を名乗り今では公爵家へと上り詰めていたのだ。


「その怨敵織田の家来で最上寺家を襲った神戸信孝の末裔は今お父様が親しくしておられる神戸道隆なのですよ」


「なんだと?それは本当の事か」


「まだ確証はございません。ただ信孝の末裔は絶えていなかった、と私は考えております。そしてそのまま神戸家を名乗り今の当主は神戸道隆であると確信しているのです」


 伶佳は複雑な思いで父親に話をしていた。神戸家の使用人である太田新平のことが好きで好きで仕方がない。


 ただ神戸家は怨敵の末裔である可能性が高い。


 神戸家としては自分たちが西城家から怨敵と認識されてしまうとは思っても居ないだろう。最上寺家の縁者が今の西条家であるとは思っていないのだ。


 神戸家としては嬬森家も西条家も神戸家を隆盛に導く道具にしようとしているだけだった>


 まさか西条家から自分たちが敵と見做される日が来るとは思っても居なかった。


「それを確定にするため色々と調べているのです。そして、もう一つの悲願にも近づいておりますわ」


「まさか、そんなことが。可能なのか」


「少しづつではありますが確実に近づいていることは確かです」


「儂の、儂の代で悲願が二つとも成されると」


 西城監物公爵はもう伶佳を見ていなかった。愉悦に浸っている父親に声も掛けず伶佳は書斎を後にするのだった。


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