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第16話 それは見た目からすると確かに本物の様に見えた。

 それは見た目からすると確かに本物の様に見えた。


 ドイツ語の初版のようで四つ折りの黒革に鉄の留め金という、いかにも本物らしく見える。


 作者と言われているリードリヒ・ヴィルヘルム・フォン・ユンツトはオカルト研究の第一人者ではあったが、その知識には偏りが多い。


 本物の『無名祭祀書』であれば「死霊秘法」からの、引用ではないが参考にしている部分がいくつか書かれている筈だった。


「私はドイツ語はまだ習い始めたばかりなの。それでその男はこの本の解読が出来る、というのね」


「その通りでございます、お嬢様。彼はドイツ語の古語が読めるだけではなく、この手の希覯書に精通している打って付けの人物なのです」


 その日から暫らくは伶佳と無名羅都は二人で西条家の蔵書室に籠っていた。


「お嬢様、お昼のご用意ができましたが」


 部屋の外から祭が声を掛けても


「そこに置いておいて。中には絶対入らないでよ」


 という返事が返ってくるだけだった。


「お嬢様、嬬森家の紗栄子様がお見えにならましたが」


 と声を掛けても自分で呼んでおいたにもかかわらず


「今は忙しいから追い返して頂戴」


 という始末だった。


「お嬢様、旦那様がお呼びです、書斎に来るように、とのお言いつけです」


 さすがに父親の命令には伶佳も逆らえないと思い祭が西条公爵に娘を呼んでもらうようお願いしたのだ。


「うっ、判ったわ。直ぐに参りますと伝えておいて」


 そう返事をしても伶佳は暫らく部屋から出てこなかった。


 一時間ほどしてやっと出て来た時には身だしなみもちゃんと整えて見た目には数日部屋に籠っていたとは思えないほどだった。


「お嬢様、大丈夫でございますか?」


「何が?」


「何がではございません。お風呂にも入らず寝室にも戻らないでこの数日ずっと蔵書室に籠っておられたんじゃありませんか」


「それがどうかしたの?」


「どうかしたのじゃありません。妙齢の女性が男性と二人っきりで何日も部屋にお籠になられるなんて」


「仕方ないじゃない。さあ、さっさとお父様の用事をすませて戻るわよ」


 そう言うと伶佳は西条公爵の書斎へと向かうのだった。

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