第12話 「疲れたな」
「疲れたな」
西条家のパーティーを終えて神戸道隆と太田新平は神戸家の屋敷に戻って来た。
「色々とお疲れになられたでしょう。今日は早めにお休みください」
「いや、そうもいかない。隼太を呼んでくれ」
太田は直ぐに小林隼太と共に神戸家の応接室にも取って来た。まだ夜はそう更けてはいない。
「旦那様、いかがされましたか」
「隼太、少し頼みがある」
「なんでございましょう」
「太田が少しの間佐島に行けなくなった。向こうでの作業の引継ぎを頼みたい」
「判りました。では早速明後日でも太田さんと一緒に行ってまいります」
太田は週に二日は嬬森家に、同じく二日は佐島に行っていた。後の三日は神戸家での用事を熟していた。その佐島に行く分を西条家に振り替えるのだ。代わりに佐島での用事を小林隼太に任せることにする。
「準備が整うまであと暫らくはこの体制で行くことになる。負担を掛けてすまんな太田、隼太」
「滅相もございません御館様。神戸家の悲願を果たすまでは隼太も私も身を粉にしてお勤めさせていただきます」
「私もです、御館様」
二人の神戸家への忠心は深い。
「二人とも本当にすまない。いつか報いることを約束しよう」
神戸家の悲願。それは今は華族でも何でもない神戸家を華族の中でも最上級の座に押し上げることだった。それは器をようとすることになるのだ。
その為には西条家すら蹴落とす必要がある。嬬森家との絆の強化は華族の頂点に立つための布石に過ぎない。
「それにしても西条のお嬢様はいかがいたしましょうか」
「だから色仕掛けで行くと言っているだろう」
道隆は真剣だった。色恋沙汰で御し得るのであれば一番簡単だ。ただ問題は太田の方か。
「御館様、それは私には荷が重いと」
「太田さん、色仕掛けするんですか?西条のお嬢様って前言ってた佐島の別荘の令嬢ですか?」
小林は上司に当たる太田が固すぎるのでいつも揶揄っている。もっと力を抜いてやったほうが上手く行くと思っているのだ。
「小林、お前は聞かなくてもいい。御館様、失敗しても文句を居よ内でくださいよ」
そう言いながも太田はなんとかするだろうと道隆は思っていた。




