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勇者の体力

作者: 西江くら

 勇者の体力は月に一回、回復する。

「どうすっか……今月」

 もう魔物を狩りに出かけるほどの体力は残っていない。

 かといって、村の中で農作業に精を出せるほどの余力もない。

 勇者は聞いたことがある。

 体力が尽きた時の、勇者の行く末を。

「まず、胃が干からびますね。じわじわと砂漠になっていくんです。そして、喉が骨に張り付き、声が出せなくなることでしょう。言語能力を失う? ノンノン。そんなチャチなものではなく、一生、孤独になることが決定するわけです。そうして次に眼球がくぼみから流れ落ち、ひざが笑うことでしょうね。簡単に折れるかもしれません。爪も形を保てずに割れ続け、肌はこけ、剥がれ、腫れる。頭にはパッサパサの髪……まあ、なにより肝要なのは孤独でしょうけどね」

 体力を回復するために勇者がいつも寄ることになる協会の神父は、以前そう言った。

 勇者は戦慄する思いで、その月を乗り切るのだった。

 いつからだろうか。

 魔王を倒すという勇者の至上使命を忘れたのは。

 いつから、日銭を稼いで暮らす毎日になったのだろうか。

 覚えてない。

 覚えているが、そんなものに浸っていては、死んでしまう。 

 自分の使命を忘れて、自分が生きてきた意味すら忘れて、勇者は生きていた。

 そんなの死んでいるのと同じじゃないか。

 勇者は自戒にそう思う。

 けれど──とも、同時に思うのだ。

 なんで、勇者の体力は月に一度しか回復しないのか。

 魔王軍から攻撃を受けている人間界を守る存在が、そんな、時限的な存在でいいのだろうか。

 いざ戦いが起こった時に動けなかったらどうするのだ。

 勇者はやっとの思いでその月を乗り切り、使命を忘れたその命で一か月を生き切って、協会に向かった。

 体力を回復するためだ。

 勇者は協会の扉を引いて、祭壇に向かう。

 神父に訊ねた。

「なあ。体力の回復が月に一度なのって、何か理由があるのか?」

「そうですな」

 神父は顎に手をやって考えるようにし、それから言った。

「いろいろ手続きの都合がいいからでしょうな。なにしろ一度の体力の供給にも、健康保険力に厚生年力、生存保険力に所得力、住民力なんかの控除を計算しなきゃならないもんで」  


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