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置き土産

「ここまでだ。悪党」


 盗賊の進行方向を塞ぐようにシルビアが飛び出した。それに続くように他の騎士たちもカルロを囲んだ。


「随分と熱烈な歓迎じゃねえか。ここまで俺を追い詰めてくれたのは誰だ?」


「私だ」


「てめぇじゃねえだろ。てめぇみてぇないかにも騎士道精神を重んじてますって奴に、味方を捨て駒にするようなやり方思いつくわけがねぇ」


 実際その推察は正しい。俺は最初から、他の隊に捕まえさせる気はなかった。うまいこと逃げられるよう配置したつもりだ。それで奴はまんまと他の隊の包囲から逃げ、ここでこうやって追い詰められている。

 正直賭けだった部分もある。仲間と別れて逃走したりした時に、ここにちゃんと首魁が来るかどうか。そのへんは見事賭けに勝ったと言える。この賭けに勝つために出来ることはやったつもりだ。


「俺だよ。俺がお前を追い詰めた」


「はぁん……てめぇみてぇなヒトがよくそっち側に立ってられるな。どう考えてもてめぇはこっち側の人間だろ」


 喋り終わると同時に、ナイフが飛んできた。全く見えなかったが、俺に届く前にシルビアに叩き落された。シルビアは地面を蹴り一気に距離を詰め斬りかかったが、剣は首魁のナイフで受け止められていた。   

 あんな巨大な剣を受け止められるナイフってすごいな。それに流すとかじゃなくて受け止める膂力ってのもどうかしてる。ハイスペゴリラかよ。


「別に立ち位置を縛ったつもりはないけど、俺は善良な一国民だよ。ただ手段を問わないってだけだ」


 ナイフの間合いにいるのは危険と判断したのか、シルビアは再び俺の傍に戻ってきた。この間にも他の騎士は手を出さず包囲を続けるのみだった。これが騎士道精神ってやつか。


「ちっ。とんだ貧乏くじだ。ライネスに移って悠々とまた暮らすつもりがこんな事になっちまって。お前が善良な一国民だぁ?笑わせるな。てめぇはどう考えてもそっち側にいちゃいけねえ存在だろうがよ」


 まったくひどい言われようだな。確かに今の状況を考えるに俺のやり方はこの世界では邪道なのかもしれないがそこまで言われる筋合いはないぞ。悲しくなってくる。

 さっきからにらみ合いを続けてると思っていたシルビアがまた動く。今度は一撃の剣から、相手の武器を取り上げる剣に切り替えたように見える。相手の振りに合わせ、腕と手首を利用し剣を回転させナイフを取り上げようとしている。

 目で追うのがやっとだけど、やってることかなりエグいな。多分、相手の指切り落としたりする動かし方だろあれ。それをナイフで相手するってのも相当すごい気もするけど。ナイフでは分が悪いのか、首魁は防戦一方になっていた。


「お前に明日は来ないよ。ここで終わるんだから」


「騎士の後ろに隠れてる分際でよく吠えやがる。いや待てよ。てめぇのその髪の色。勇者側のヒトか

?いや、てめぇこの世界の人間じゃねぇな!?」


 おっと話がだいぶ変わってきたぞ。髪の色を見ただけで、この世界の人間じゃないと見抜いた?でもなんで魔王の話は出てこない。魔王は髪でも染めてたのか?その瞬間シルビアに前蹴りが決まっていた。シルビアは後ろに数歩下がると、再び斬り込んでいた。


「お前、それはどういうことだ!?」


「教えてやるかよ!」


 そう言うとともにやつは地面に煙玉のようなものを投げあたりは煙幕に包まれた。直後、地面になにか刺さるような音がして、同時に飛んできたナイフをシルビアが叩き落とした。今度のナイフは二本投げられていたらしく、二度金属がぶつかる音がした。

 煙幕は、シルビアのごうっと鳴る一振りによって払われ、あとに残されたのは、片足を失い地面に座り込む盗賊の首魁と、地面に刺さる一本の槍だった。

 この槍はジャンさんのものだ。ジャンさんは槍を得物としていて、あらかじめ、逃げるような動作があれば全力で槍を投げてほしいとお願いしていた。

 首魁の足元は夥しいほどの血が濡れている、わけじゃなかった。どうやら止血の魔法でもあるのか切断された足からは血が止まっていた。代わりに泣き別れた足から多少の血が流れ出しているような形だった。


「はぁ、お手上げだ。いいさ教えてやるよ。まず俺の名前はカルロだ。覚えときな。元々は聖国で暗部をやってたが、今はこのざまだ。直に手配書も回るだろうよ。まずだ、この世界に黒髪黒目の人間は存在しねぇ。これは魔族だって例外じゃねぇ。その魔族も、ごふっ。ああ、畜生。首輪はつけてあったのかよ」


 カルロの胸には深々とナイフが突き刺さっていた。俺に向かって投げられたナイフが一本消えていた。騎士たちは何だなんだと騒ぎ俺を見ているが、カルロは語るのをやめなかった。


「そいつの仕業じゃねぇ。そいつに投げられたナイフなんざ刺さらねえよ。大方口封じだな。畜生。おい。お前、名前は」


「波多江だ」


「そうか、ハタエ。この本をくれてやる。どう扱うかは任せるが、きっと有用なことが書いてあるだろうよ。じゃあな」


 そう言って一冊の本をこちらに投げ、カルロは絶命した。


「手の空いてる者たちは隠してある馬車を取ってきてくれ。カルロの遺体を国まで運ぶ」


「一体何だってんだ。何が()()だよ」


 シルビアが顔を覗かせ本の表紙をまじまじと見ている。


「君はこの本が読めるのか?」


「ああ、読める。……そうか。焦って気づかなかったけど、これは有用かもしれない。すみませんが皆さん。この本については国王に判断を仰ぐので他言無用にてお願いします。シルビア。これを俺は読めて当たり前なんだ。なんせ、俺の国の文字で書いてあるんだからな」


 -------------------


 撤収作業を終え、御者台に乗って揺られている。隣にはシルビア。荷台部分には、二つの遺体が乗っている。一つはカルロのもので、もう一つは別働隊の騎士が会敵したものだ。

 こいつは逃走が不可能と判断するや否や、毒を煽り自殺したのだという。なんとも胸糞の悪い。会敵した騎士によれば、こいつも暗部らしいとのこと。

 おそらくだがカルロの口封じもこいつの仕業だろう。まあ聖国に情報を持ち帰られなかったのが不幸中の幸いかもしれない。


「こりゃ俺護衛つけないとだめかも知れないな」


「なぜだ?今の生活であれば護衛など必要ないと思うのだが」


「本の内容次第ってところだが、暗部が持ってた別の世界の言語の本ってだけできな臭すぎる。しかもあんな場で暗殺されたやつが持ってたものだぞ。俺一人で抱えていい情報じゃないのに、現時点俺しか読めないって時点でもう、ね。はー、どうすんだよこれ。扱い困るわー」


 ひょいっとシルビアに本を投げる。


「馬鹿者そんな雑に扱っていいものではないだろうこれは!」


「いいんだよ。むしろそんな雑な扱いの許されるものじゃないと俺が困る」


「まったく」


 シルビアに渡された本を受け取り抱える。

 嫌だなー、なんでこんないかにも重要ですって本が俺のもとに転がり込んでくるのかな。騎士たちやシルビアの手前、中身を読めないけど、早いところ読んで楽になりたいわ。


「やはり……君のやり方は褒められたものではないな。さっきの不意打ちだってそうだ。周りを包囲しているのだからあそこまでする必要はなかったのではないか?」


「別に騎士道を軽んじてるつもりはないさ。ただ、どこかで決めの言っては打つ必要があったとは思ってる。もしかしたらあそこから何か出来ることはなかったのかもしれないけど、行動する暇を与えてしまうのはああいう奴には悪手だとも思ってる。最後の最後まで気を抜かないってのは大事だと思うぞ」


 もちろん、相手が騎士道精神を重んじるような輩なら、視覚外からの一撃なんて決める必要なんて無いと思うけどな。残念ながら相手はそんな殊勝な輩じゃない。以前がどうあれ今は盗賊だ。こっちが手を抜いて書かれるような相手じゃないさ。


「君は随分と歪な生き方をしているな。生き辛そうに見えてしまう」


「悪意には悪意を。敵意には敵意を。誠意には誠意をってな感じか。まあこの生き方で生き辛いと思ったことはないな。こんな生き方しないで済むならそれに越したことはないけどね」


 この世界がどういったところかはまだ一国しか見てないからなんとも言えないけど、地球(こっち)の世界に比べたら命の危険はすぐ隣りにあるように感じる。人の良さで言えば、明らかにこの世界の方が良い人が多いと思う。それでもすぐにはいそうですかって生き方を変えられるほど真っ直ぐな性格じゃないしな。なんとも言えないわ。


「やはり歪だな。是非とも君にはこの世界の良い部分に触れてもらいたいものだ」


「命の危険を抜きにすれば良い世界だと思うぞ」


「普通に過ごしていれば命の危険等そうあるものでもないと思うのだが?」


「そりゃそうか。実際、今回のも家で報告を待ってればよかった面もあるしな。人の生き死にが見たいわけじゃないが、どうしても結末をこの目で見たかったってのはある。襲撃のお礼みたいなもんか。しかし余計な物まで拾っちまったけどな。実際どうなんだ?カルロの口からは勇者の話ばかりだったけど、勇者と魔王ってどんな人物だったかくらいは伝わってるんだろう?」


「君は話すときに勇者が前に来るのだな」


「勇者って言ったら正義で良き人。魔王は悪って印象だな」


「そうか、そういう印象なのだな。魔王は我が国、レイシア王国を作ったとされている。それに、優しい良き人だったらしいともな。魔王なんて呼ばれているのは、単純にこの世界に残した影響が強いからなのではないか?食糧事情を改善するために尽力したとされている一方、魔物を作り出したのも魔王だと言われている。極端なヒトだったのだろう。逆に勇者は聖国を作ったとされているが、それらしい話は残っていないな。こう、口にしてみるとなぜそのような呼ばれ方をしているのか曖昧な部分が多いのだな」


 意外っちゃ意外だけど、なんせ三百年も前の人間だもんなー。どこでねじ曲がって伝わってるかわかったもんじゃないな。この世界じゃ歴史書なんて無いんだろうし口伝じゃしょうがないな。


「当時を知る手段があれば、いいんだけどね。あるか今手元に」


「当時を知るためにもまずは帰らなくてわな」


「ごもっとも」

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