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アメとムチ

 騎士団の会議は混迷を極めていた。

 盗賊が発生した報を受け、周辺地域を山狩するが、待ち受けているのは盗賊ではなく、アンデットのお迎え。

 通常の盗賊相手ならば見敵必殺。騎士団が遅れを取ることはない。

 だが、今回の盗賊は禁忌による死霊術でアンデッドを囮に使い、見事騎士団の追跡から逃れている。

 アンデッドの対処は厄介極まりない。浄化魔法に精通していない騎士団は、被害を減らすべく防戦一方になる。オビヤ教の聖職者が現着してようやく、自体収束を図ることが出来る。それほどまでに禁忌魔法は厄介とされている。

 だが、その中でも、数人盗賊を捉える事ができたのはこちらにとっては有利にことが進むと誰もが思っていた。

 しかし、その目論見は大きく外れる。捕らえた盗賊は口を割らないのだ。五人捕縛したが皆黙秘を貫いている。


「これは困りましたな。山狩による成果も得ることが出来ず、捕らえた者は皆口を割らない。いかがするかな、相談役殿」


 無茶振りここに極まれり。まあ、騎士団一、隊員を抱えてるメルブライト卿に話を振られてしまっては仕方ない。


「そうですね、荒事は嫌いなんですけどまず尋問役やらせてもらってもいいですか?」


「そんな非力な体で尋問なんて出来るのか?」


 シルビアさんや、何も尋問は暴力だけがすべてじゃないんだよ。だから脳き……

 そもそも荒事は嫌いだ。出来るなら穏便に済ませたい。これ本音。騎士団によってムチは十分くらい貰ったろうから飴を与えてもいいんじゃないかと思う。


 -------------------


「さて、諸君。今日から尋問を担当することになったものだ。よろしく頼む。まあ、尋問と言っても私は体を痛めつけたりすることはない。どうせ君等が情報を出し渋るのは仲間意識なんてものからじゃないだろう?大方忌々しい死霊術があるからとかかな?」


「う、うるせぇ……何度言われても同じだ。情報は吐かない。さっさと殺せ」


 わかりやすいくらい動揺してくれてありがとう。頭目あたりに死霊術で脅しでも受けているのかな。目の前でアンデットにされる人を見て恐怖心を植え付けられているのだろう。


「私がするのは提案だ。死霊術はおそらく死後、魂と肉体を弄ぶ外法のようなものだろう。そこで私から出来る提案は、君らの処刑を頭目討伐後に執行させてあげようというものだ。さてこれで、君らは死後肉体と魂を弄ばれること無く、人として生涯を終えることが出来るのだが、魅力的だと思わないかね」


「……」


「まあ一晩それぞれ独房に入って、ゆっくり考えてくれたまえ。ちなみに、情報に虚偽が見られた場合、虚偽報告したものは即刻処刑だ」


 はぁ、こんな役回りあんまりやりたくなんか無いんだけどな。

 取調室を出ると、騎士団の面々に囲まれた。


「まあまあ、待ってくださいよみなさん。これだけじゃ素直に吐くかも分かりませんからね。詰めで汚れ役を買って出てくれる騎士団員さんが居ると助かるのですが。どなたかいますか?」


「……」


 無言ね。まあ騎士道を歩む者にとって汚れ役なんてやりたいものじゃないよな。


「ワシがやろう」


「えっと、すみません。まだ騎士団の方の名前を覚えきれていないのですが、お名前をお伺いしても?」


「クレイヴァン隊所属、ジャンアッティカス=ジェーグールディングじゃ」


「……えと」

 ここにきてとんでもなく長い名前の人出てきたな。


「呼びづらい名なのはわかっておる。ジャンで良いぞ」


「じゃあ、失礼して、ジャンさんにしてもらいたいのは——」


「坊主、本当に一般人なのか?相談役とはいえ坊主はどちらかと言うと悪人じゃな」


「降りかかる火の粉は払います。そんな生き方してきましたからね」


「まあ、若いのに任せるのは酷じゃろうて。ワシがやるから明日まで待っておれ」


 さて、どうして俺がこんな事に巻き込まれたかというと、少し話は遡る。


 -------------------


「やあ、災難だったね。せっかく活動範囲を広げて街の外に出たはいいけど盗賊の襲撃に出くわしそうになるなんてね」


 盗賊に襲撃を目撃してからしばらくして、アンリの部屋に向かったわけだが開口一番こんなことを言われてしまった。


「この国は平和だと勝手に勘違いしてたこっちも悪い。せめて護衛でもつけて出るべきだったと後悔してるよ。まあ、遠征の内容があまり漏らしたくない内容だったから、いざ護衛をつけるかどうかと言われると悩むがな」


「この国は平和だとも。賊も別の国からの流れだろう。ところで、何をしに湖まで行ってたんだい?」


 どこに行ってたかまで把握済みなわけね。


「食文化に少し手を加えようと思ってな。塩の価格改定、新しい産業の下見だ」


「なるほど、この書類はそういうわけだったんだね」


「ノーランさんからなんか書類きてたのか?」


「新しい産業、国内での塩の生産だね。もちろん君の名前も乗っている。しかしこの国で新たな産業を興そうとは随分と大きく出たね」


「いや、最初はそこまで大事にするつもりはなかったんだ。塩の需要が上がって、値段が少し安くなればもっと美味しいものを食べられるんじゃないか程度のもんだった。けどノーランさんがかなり乗り気になっちゃってな。まあ途中から俺も楽しんでたけど、結果的にそんな事になっちまった」


「かなりいんじゃないかな。塩は嗜好品であり他国からの輸入でしか入手できない代物だったからね。私も気になってこの間、干草亭に足を運んでしまったくらいだよ。実に素晴らしかったね芋の素揚げ。塩というのはあそこまで料理を変えてくれるとは、まだまだ知らないことばかりだ」


 フットワーク軽すぎないかこの王様。あんな大衆酒場にお忍びで行くなんてどうかしてるぞ。 


「城のスープとかにも塩入れたら結構うまくなると思うぞ」


「本当かい!早速手配しなくては。ん゙ん゙っん、さて、話を戻すが、先日賊の一部を捕らえることに成功してね。そこで当事者である君に会議に参加してほしいというわけなんだよ」


 何言ってんだこいつ?


「俺がそんな会議に出たってなんの意味もないだろ。こっちはなんの取り柄もない一般人だ」


「騎士団は騎士道を重んじるあまり少し頭が硬いのではないかと思ってね。別の視点を持った君を会議に放り込めばなにかいい影響があるんじゃないかと」


「んーまあ、とりあえずわかった。当事者ってのと相談役の肩書使わせてもらうけどそのへんはいいんだな?」


「君の好きにやってくれたまえ」


 とまあ、こんな感じで会議に半強制的に参加させられたわけだ。


 ・・・・・・・・・


 坊主もエグい事言いよるわい。一瞬で死霊術による恐怖を見抜き、挙げ句脅威まで取り払ってくれるとは、賊にとっては願ったり叶ったりの結果じゃろうて。一体どんな世界で生きてきたらああなるんじゃろう。

 尋問が終わり、一人独房のある地下牢に戻ってきたジャンアッティカス。

 彼はハタエからダメ押しをしてきてほしいと頼まれていた。


「お疲れ様です、ジェーグールディング卿」


「ご苦労じゃな」


「さて坊主が言ってたんじゃが、こんなに人数おるのなら処刑の延期は四人くらいでいいじゃろうと言っておったな」


 賊たちは、情報を吐けば全員が処刑延期されると勘違いしていたのか、ジャンの言葉を聞くなり喚き始めた。


「情報を言う!だから、処刑の延期を頼む!」


「なんじゃ。じゃあ書く物渡してやるからの、明日までにまとめておくんじゃぞ」


 いやあ、エゲつないのお。賊に同情などせんが、坊主の手のひらの上で転がされているのを見ると哀れじゃな。

 まあ、これで賊討伐に進展が見られるならこんな役回りでも喜んでやるわい。


「それじゃあ、ワシは家に帰るとするかの。見張り頑張るんじゃぞ」


「はいっ」


 ・・・・・・・・・


 干草亭にシルビアと足を運んで、夕食を取ることになった。

 今の彼女は、フル装備ではなくなんとなくお出かけ用の服装と言った感じがする服を着ていた。


「君は外道なのか?」


「ん、なにが?」


 最近干草亭の看板メニューになりつつある芋の素揚げにをつまみながら適当に答える。


「尋問のことだ。あんなやり方は騎士道に反する。あれではまるで君が悪党ではないか」


「それは心外だな。いいか、まず俺は騎士じゃない。騎士じゃないからあんな方法だって平気で取れる。それに言ってはないが、全員が情報を吐いて齟齬がなければ俺は全員処刑は延長してもらえるよう頼むつもりだ。もちろん吐かなかったやつは延期は無しだが。なんだ?俺が清廉潔白じゃなくて幻滅でもしたか?」


「いや、幻滅はしていない。だが、君が生きてきた世界は過酷な世界だったのではないかと思ってしまっただけだ」


 過酷。過酷ねぇ。俺からすれば命の危険が常に隣り合わせで、脳筋がたくさんいるこの場所のほうが過酷に見えるけどな。


「過酷じゃないぞ。この世界みたいに嘘がつけないなんてことはないからな。地球(こっち)の世界は。命の張り合いはないからそういう点では安全だ。何が嘘なのか見極めなきゃいけないし、暴力で解決することなんてなにもない。常に腹の探り合いをして、何事もないかのように会話する。そんな世界だよ」


「君の世界を否定する気はないが、私からしたらやはり君の世界は過酷だ。君の目にはこの世界はどう映っているのだ?」


「そうねー。良い世界だと思うよ。なんだかんだ、今周りに強い人や頼れる人がいて命が脅かされることもない。嘘破りなんてものがあるから人の言葉を疑わなくて済む。まあ今の環境に居る限りは素晴らしい世界だな。周りが強いから自分が最弱であることを忘れないで済むし」


「では、今度一緒に鍛錬でもどうだ?多少はマシになるかもしれないぞ」


「やめとくよ。体力はつけてもいいかなとは思うけど、魔力強化の使えない人は最弱のままでいい」


 そう、たまに魔力の使い方のレクチャーを受けるが、魔力のない世界で生きていたからか、魔力は全く扱うことが出来ず、宝の持ち腐れ状態になっている。


「む、そうか……」


「まあ、暇な時に逃げ足の為、走り込みくらいはするよ。淡い期待を込めてな」


「しかしなぜ君は膨大な魔力を持ちながら一切の魔力を仕えないのだろう」


「よくわかんないけど、魔力を扱う器官が育ってないんじゃないか?生まれてずっと使ったことのないものだし。まあ、悲観すること無いさ。最弱は最弱なりに動き方ってものがある」


「君がそれで構わないのならいいのか」


「そういうもんだ」



作者体調不良のため次回更新お休みします

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