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足音

 こんにちは。地球の皆さん。異世界に来てから早一週間が立ちました。

 この一週間何をしていたかというと、城と学び舎を行って帰る毎日。おかげさまで、ある程度街の看板は読めるようになりました。

 ちなみに、学び舎で学習する範囲を広げるのは受け入れられませんでした。どうやら、一国民が知識の幅を広げるのは、この国ではまだ壁が高いようです。

 そんなわけで、今日はこの国の南側に湖があるという話を聞いたので、湖に来ております。

 まあ、地球に友達なんていないんですけどね。

 実は、商館にもちょこちょこ足を運んでいたりしたおかげで、顔を覚えてもらい、少し融通が聞くようになった。

 レイシアはこの大陸の北西に位置していて、南東には海が広がっているのだという。残念なことに海に面していないレイシアは他国から塩を買い付けるしか手段がないのが現状だった。

 そこで、目をつけたのが湖。地理的に海とそんなに距離が離れてないので、実は、この湖昔は海とつながっていたんじゃないかと予想を立てた。湖は隣国ライネスとの国境沿いにあって、それなりの大きさを誇っている。ここに、顔馴染になった商館のノーランさんと一緒に来ている。

 どうしてノーランさんと来ているかというと、話は遡ること昨日。


「塩を嗜好品ではなく、大衆向けの調味料にしたいです」


「ふむ、大衆向けですか。ですが、塩は現在、他国から買う以外入手方法がありませんぞ。それに嗜好品という印象が強く大衆がすぐに食いつくとは思えないのですが」


「そのために、まず塩の味を知ってもらうために、干草亭に例題にして協力してもらいます。これは、芋を素揚げして、塩を振っただけの簡単な料理です。干草亭のハッチに作ってもらいました。マリカには今後自分たちの店で提供される料理が、商人にはどう映るのか体感してもらうために来てもらってます。さ、どうぞ召し上がってください」


 干草亭とノーラン商館は、そこまで距離が離れているわけではないので、干草亭で揚げてから、かごに入れて持ってきた。商人に料理を売り込むということで、ハッチもマリカもビビってしまった。

 ハッチは最初、こんなんでどれの料理が美味くなるのかね、と半信半疑で作っていたが料理を口にすると、俺がこんな料理を作ったのか、とワナワナしていた。マリカもこれは絶対売れるよと、自信満々に商館に売り込みについてきた。


「これは素晴らしい。芋の素揚げに塩を振るだけでここまで、素材を引き立てられる効果が塩にあったとは。いい、いいですぞ。ハタエ殿。これは売れる予感がしますぞ。我が商館も費用を出してこれを売り込むことをお約束します」


「話はそれだけではないんですよ。なんでも、この国の南側には湖があるとお聞きしました。その湖は、海から遠く離れていないとか」


「そうですね。我が国の南側には湖があります。塩の取れる海は他国の領土となってしまうため、我が国では塩が採れないのですぞ」


「これは、まだ予想の段階ですが、湖は大昔、海とつながっていたのではないかと私は考えております。私の世界では、海から採れる海塩だけではなく。山で採られる岩塩。湖から採れる湖塩と、色々ありました。まずは比較的可能性の高い、湖をノーランさんと視察できるかなと思ってお話させていただきました」


「いい。いいですぞ!ハタエ殿!仮に我が国で塩が生産できるようになれば、もっと塩の供給量は増えますぞ。それに、この芋の素揚げ。これが広まれば需要も高まる。素晴らしい!今すぐに行きましょう」


「落ち着いてくださいノーランさん。湖の水がすべて塩を含んだ水だったらもっと早くに誰かが気づいたかもしれません。そうでないってことは、人の手の遠く範囲は普通の水なのではないかと思います。もし、塩水が採れるなら湖の中心部まで行かないといけないかもしれません。その準備をしてから向かうことにしましょう」


 こんな感じで思いの外ノーランさんに熱が入ってしまい、終始マリカは圧倒され、私必要だったなんて言いつつノーランさんは、私も昔は冒険が大好きだったんですぞ!と、ぱっぱと準備を進めて、昨日の今日で湖に来ることになった。

 ちなみに、どうやって用意したかわからないが、二人乗りくらいのボートに、すごく長いロープ、バケツ、水瓶を一日で用意したノーランさんはすごいと思う。


「いやーハタエ殿は博識ですな。まさか国内に、産業になる可能性が眠っていたとは驚きですぞ。さぞや高名な方だったのですな」


「いやー、私なんかと同じような知識を持った方はたくさんいましたね。私の知識も借り物に過ぎませんから」


「それはもはや魔界ですな。しかし、私に商売の話を持ってきてくださったのは、他でもないハタエ殿ですからな。そこはご謙遜なさるとこではございません」


「そういうものですかね」


 ノーランさんは喋りながら普通に船を漕いでる。やっぱりこの国の人はゴリラなのかな。息一つ切れてない。てっきり、魔法で風か水流でも操るのかとも思っていたが、ノーランさん曰く魔力量が少ないから行きは人力とのこと。


「この辺でいいですかな」


「ええ、十分陸から離れたので大丈夫だと思います。これで塩が取れなくても恨まないでくださいね。あくまでも可能性の話でしたから」


「恨みませんとも。まさか海でではなく湖で船に乗るとは、これも経験ですな。さて、水を汲むとしますぞ」


「よろしくお願いします」


 かくいう俺は、完全にお客さん。全部ノーランさんに投げても良かったのだが、発案者にはぜひ来てほしいと言われ、ついてきた次第。

 ノーランさんすごい勢いでロープを引き上げるから船がすっごい揺れてる。ひっくり返んない?これ。おろしては、引き上げ、船首と船尾の水瓶に水を貯めてく。

 程よい感じに水瓶に水が貯まり船も行きよりだいぶ沈んでる。

 帰りは早かった。間欠的に風を起こし陸に向かっていく。


「ノーランさんこの水瓶持てるんですか?」


「問題ありませんな、私も魔力強化を使えます故」


 レイシア王国って、ゴリラの国なのかな。


「あとは、城下町に戻って塩ができるかどうか待つだけですね」


「何を言いますか、ハタエ殿。今すぐに作りますぞ」


 ノーランさんは馬車の上から、でかい鍋を降ろした。

 幌馬車じゃない理由はこれだったのか。馬もノーランさんも怪力だよ……どうなってんだよこの国は。

 鍋に水瓶から水を移し、魔法で火を起こし熱していく。

 これ今日中に帰れんのか?


「ノーランさん、これそんなすぐ水蒸発しますかね。今日中に帰れますよね?」


「大丈夫ですぞ、ハタエ殿。どうにかなります」


 熱いのは鍋だけじゃなくノーランさんもだった。


 -------------------


「お疲れ様です。ノーランさん。いやー、よかった。無事塩が採れることがわかりましたね」


「ええ、これもハタエ殿のおかげですな。これから新たな産業が出来ることを考えると胸が踊りますぞ。ハタエ殿に支払う報酬は後日詰めるといたしましょう」


「お金、貰っていいんですかね」


 かなり複雑な気持ちになる。発案しただけで、計画実行はノーランさんだ。殆ど見ていただけで何もしてないのにお金を貰うのはって気持ちになる。


「当然ですな。ハタエ殿が私に話を持ち込んでこなければ実現しなかったお話ですから」


「そんなもんですかねぇ」


 ノーランさんの言わんとすることもわかる。俺が塩の話を持ち込まなければ塩は嗜好品のまま。国では新たな産業は興らない。そういう話なのだろう。借り物の知識って点は引っかかるが……


「さて、帰りましょうぞ」


 ノーランさんは広げていた道具を馬車に積み込み御者台にの乗った。続けて馬車に乗り込む。日が暮れる前に帰路につくことが出来てよかった。

 最悪、野営もあるかなと思ってたんだけど、この分だと野営はしなくて済みそうだ。しかし、この馬車全然揺れないから、あんまり尻が痛くならない。


「む、これは……ハタエ殿少し森の中を駆ける故、辛抱してくだされ」


「どうしまし——」


 急に馬車が加速し、森の中を駆ける。舗装された道から外れたことで、いくら馬車が衝撃吸収に優れていても、体が跳ね回る。何とか馬車に捕まり、後部から顔を出す。ちらと街道に見えたのは転がった馬車。馬車に馬は繋がれてなく馬車のみが転がっていた。

 馬車が襲撃された?誰に?盗賊か?

 心臓の鼓動が早くなり様々な考えが頭をよぎる。

 ノーランさんは必死に馬車を走らせていた。一刻もこの場から離れようと。


「ノーランさん!なにかあったんですか!」


「おそらく、盗賊かと!血の匂いが少ししました故、急ぎこの場を離れます」


 一体どこから湧いたんだ盗賊なんて。

 この国は平和だと思っていたが、そんなことはないのか?でも、アンリもシルビアも、盗賊が出るなんて話はしていなかったし……これは無事に帰ったら聞かないといけないな。

 しかし……気持ち悪い。

 馬車は依然森の中を駆け、木の枝を薙ぎ払って進んで行く。街道に見えた馬車はもう見えなくなっており、荒れた道を走らされた馬は息が上がっていた。


「このあたりまでくれば大丈夫でしょう」


 城下町につく頃にはあたりはすっかり暗くなっていた。


「私は、騎士団に報告をしなければなりません。あの場を駆け抜けられたことは幸いでした」


「そうですね、襲われた方達には申し訳ないですが」


「それではハタエ殿、また今度改めて」


「ええ、また今度」


 ノーランさんは馬車を進め、騎士団の詰め所に向かった。

 シルビアはもう帰ってるかな?できれば話がしたいんだが。

 歩みを進め帰路につく。


「シルビア、いるか?」


「なんだ?」


「今日、湖に行っていたんだが帰り、盗賊か何かに襲われた馬車があったっぽくてな。ノーランさんがいきなり森に突っ込んだときは驚いたよ」


「何?それは本当か?」


「ああ、さっき詰め所に報告しに行ったから明日には話があるんじゃないのか?」


「ふむ。そうであるならば君は街の外へ行くのは控えてくれると助かるな。街の中は安全だろうが外では何があるかわからない」


 盗賊なんぞにあったら抵抗なんて出来ずに殺されちまうよ。こっちは一般人以下だからな。


「そうする。今日は疲れたからもう寝るわ。おやすみ」


「ああ、おやすみ。ゆっくり休んでくれ」

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