討論会
「ん゙ん゙ー」
窓を開け、伸びをして目を覚ます。実に気持ちの良い朝だ。自分が今ヒモ生活だって点を除けばだが。
でかい日照石を覆っていた黒い布を取り払い窓際の明るい場所においておく。
たしか明るい場所に置いておいても光るとか言ってた気がするな。天然の鉱石なのかなこれ?
「おはよう」
扉を勢いよく開け放つシルビア。
やめてくれって。心臓に悪いし、第一、遠慮無しに男のいる部屋を開けるんじゃありません。
「おはよう、シルビア」
もうフル装備だ。こっちはまだ起きたばっかりだってのに。よく朝からあんな重たいのつける気になるな……まああれで長年生活してれば慣れるもんなのか?」
「君の起床も確認したし、私は一足先に城へ行ってるぞ」
「ああ、わかった。俺はー……今日の予定考えてから家出ることにするよ」
「わかった。では行ってくる」
なんかテンション高いな。普段からあんなテンションなのか?よくわからんな。
さて、今日はどうするかな。
今日は城に行くのは決定事項だな。金が無い。
リビングに出てみると机の上には黒パンとスープ、そして鍵が置いてあった。
いやー、ありがたいね。朝食をどうするか考えなきゃいけないところだったわ。絶賛ヒモ生活謳歌中だな。
用意してくれていた朝食を食べ、服を着替える。
そういえば洗濯ってどうしてるんだろ。家で洗ってんのか?それともクリーニング屋みたいなのでもあんのかな。まあ後二日分はあるしそのうち聞けばいいか。
「さて、ゆっくり城に行くとしますか」
家の鍵を締め背負カバンを持ってメインストリートに向かう。シルビアの家は立地的に城にも近く、メインストリートにも近いといういい物件だ。まだこの時間は人の往来も少なく黒髪でも変な視線を向けられることは無い。
バンダナでも頭に巻いてみるか?もう何回か外歩いてるから見慣れてくれたかな?んー悩む。
そんなどうでもいいことを考えているうちに城に着いてしまった。門兵に挨拶をし手形を見せ中に入る。
「おはようございます。陛下、波多江です」
「どうぞ、入っていいよ」
「朝早くから仕事ですか、大変だね」
「これでも国王だ。仕事は山のようにあるが。早速話を聞こうか」
部屋にはアンリとクレイヴァン卿。そして山のようになっている書類。
「さてだ。色々と考えてみたんだが、地球の世界のことを話すにしても、話す内容が多すぎるというか、正直言って纏まらないっていうのと、アンリがどんな情報を求めてるのかがわからない。だから質問形式はどうだろうかって考えてみた。アンリがこっちの世界で気になってることを俺に聞く。逆に俺がアンリにこの世界や国で気になることを聞く。最初のうちはそんな感じでどうだろう」
「いいね、ではそのようにしようか。さて、君がいた国の話で構わない。政治体制どの様になっているんだ?まずこれを聞きたかった」
「そうだなまず断っておくと俺は一国民だ。特別な役職に就いていたわけでもなければ、政治に組み込まれていたわけでもない。まずその点を理解していてほしい——
こんな感じで質問に対して答えていく。
当然、政治等についてはある程度知っているだけで専門的な知識はない。答えられること、答えられないこと色々ある。浅学って言う点は否めない。
なので、質問に対して答えていく中で、専門的知識のない問題については、それがどうなっているのかだけ答え、どうしてそうなっているか討論していく形に落ち着いた。
政治の他に、国民の学習形態はどうなっているのか。情報伝達はどういう媒体を使っているのか。他国へ移動するときはどうするか等々。
そして、討論していく中でアンリが納得行くものがあれば政策や方針に当てはめることはできるかを考える。
もちろん、地球の世界の仕組みは、人間が長年積み上げた歴史の中で、その時代の背景やその他の要因があって考えられているものだからすぐに落とし込めるってわけじゃない。
最初に質問された、政治体制の選挙制度もその一つ。選挙制度が成り立つ背景として、国民が政治とはどういったものか理解している必要がある。
もし国民が政治について理解していなければ、立候補者がどんな政策を挙げようと、何をしようとしているかわからないから投票することも出来ない。
この世界では、学習システムがそんなに発達しておらず、国民が政治に疎いらしい。
国民は日常生活を送るうえで不自由しない範囲の教育しか受けていない。
必要になる知識は身についているけど、それ以外の知識には触れる機会が無い。
そうなると選挙制度はこの国では不適切となってしまう。
多分、この世界では、王や知識者が実際に目を通して判断していくほう効率が良く、同様に後継者もそうなのだろう。
だから、世襲制という王政が向いているという結論になる。
だが、今挙げたのは政治体制についての話だ。
地球の世界では長年積み上げられた経験や知識に基づいた政策や方針が数多く存在している。その中にはこの世界でも通用するものも当然存在するはずだ。
そこから先の判断はレイシア王国国王、アンリの出番になるというわけだ。俺は関与できない。
「なんだか熱く語っちゃったけどハタエの世界の人口は凄まじいね八拾億人近くだっけ、とても想像できない数字だよ」
「俺も詳しい数字はわかんないぞ。どっかの記事でそんな数字を見たような気がするってくらいだ。いやー、思った以上に浅学って思い知ったね」
「そうかい?そもそも私とこうして話ができて言う時点で博学だと思うがね。クレイヴァン卿どうだい?」
「ええ、正直に申し上げて私の想像を超えておりました。最初、陛下が相談役と申し上げた時、戯れ程度に思っておりました。謝罪いたします」
「いえいえ、気にしないでください。クレイヴァン卿からしたらどこの馬の骨ともわからないやつですからねそう思われてしまうのは仕方ありません」
「馬の骨……ですか」
「えーっと、素性のわからないやつって意味です。すいませんややこしくて」
「なんだか、ハタエは人によって態度がすごく変わるね。私が何も言ってなかったら私に対してもそんな感じの喋り方になっていたのかな?」
「多分そうだな。砕けた喋り方でいいって言われてなかったら、クレイヴァン卿に対しての喋り方と同じになってると思う。態度は、そうだな。めんどくさい言語の国の生まれだからかな。今はラウラさんの翻訳の腕輪のお陰で問題なく喋れてるんだろうけど、地球の世界じゃ言語の種類が多くてな。この世界で例えると、国を移動したら別の言語になると思ってくれていい」
実際便利なんだよな、この腕輪。地球の世界でもこんなリアルタイム翻訳できるものまだ発明されてないぞ。これがあると学習意欲が無くなってくね。
「それはちょっと想像できないね」
「そうだ。書くもの貰ったりって可能か?日記ってわけじゃないけど、喋った内容とかをまとめておきたくてな。内容は、安心してくれ。地球の言語で書くから誰にも読めないはずだ」
単純な暗号化だな。まあ他にも異世界人がいたら読めちゃうのかもしれないけど。
「構わないよ。ほら」
「助かる」
「ちなみにどういう文字なのかな」
「えーっと《こういう文字》だな」
「これは……ハタエ。君を相談役にしてよかったと改めて思うよ。実はねそれと似たような文字で書かれた本が、王家には伝わっているんだ。その解読役を君にお願いしたい」
「部外者にそんな大事そうな本の解読を頼んでいいのか?」
「読めなければ何を書いてあるのかわからない、ただの本だからね。もしかしたら重要なことが書いてあるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。古くから伝わってる本だ。解読することに意味があると私は思っている」
それもそうか。初代国王はなにかしら、理由があって本を遺していくと決めたんだろう。建国されてから何年かわからないけど、建国以来人に読まれるなら意味のある事なんだろう。
「今すぐにってわけじゃない。最初に言った通り、まだ君はこの世界に来て日が浅い。だからこの世界について、もっと知ってからで構わない」
「読めるか読めないかは置いておいて、一応受けよう。同郷ならもしかしたら俺にとっても重要なことが書いてあるかもしれないからな」
「さて、一日中仕事をしないわけにもいかない。君の話で、考えたいことも出来た。今日はそろそろお開きにしよう。さて、給金は金貨一枚だ。君の話した内容が、会議で通ったりすれば別途報酬は払う。受け取ってくれ」
「この世界の通貨価値がわからないんだけど教えてもらえるか?」
金貨をポケットに入れて尋ねる。
「簡単さ。銅貨十枚で銀貨一枚。銀貨十枚で金貨一枚だ」
なるほど。銅貨が百円、銀貨が千円、金貨が一万円って感覚でいいのか。覚えやすくて助かるな。
「ありがとう。それじゃあ、また今度」
執務室をあとにして、お腹が減ってることに気づく。
結構熱中して話ししてたからな。ちょっと食堂に寄って飯でも食べるかな。
「すいませーん。食事もらえますか?」
飯場の人にも、城内に黒髪が居ることは伝わっているらしく、特に訝しがられること無く食事を貰えた。相変わらず黒パンとスープだが、文句言っちゃいけない。出してもらえるだけありがたいと思わないと。
この後どうするかな。筆記具は貰ったからしばらくはなんとかなるし。商館でも探してみるか?学び舎で文字勉強するのもいいな。ちょっと散策してみるか。
それで、ここどこだ。
更新は4日おきにしてるのですが、実際どうなんでしょう。もう少し上げるべきなのか、今のままでいいのか、それとも固定曜日に更新するべきなのか色々悩んでおります。感想などでご意見いただけると助かります。