厄介事
教皇がこっちに来るって言ってから七日ほどが経過した。聖国からレイシアまで七日ほどかかるらしい。一応国のトップ同士のお話ってことで時間もあったし、正装らしいものも用意してもらった。
そして臨むはトップ会談その二。
「ルルツ教皇、遠路はるばるようこそレイシアへ」
出迎えのメンツはアンリ、クレイヴァン卿、俺、マリー司祭。
「出迎えありがとう。先日は取り乱して済まなかったレイシア国王」
教皇の印象は優しそうなおじいちゃんって感じだ。それがこの間すごい取り乱してたんだからすごいもんだ。それだけ勇者が神聖視されてる証拠だったんだろう。
「そちらの黒髪の方が先日行っていた相談役の方かな」
「そうです。彼が我が国の相談役です」
「ご紹介に預かりました、波多江と申します」
「さ、立ち話もなんですから城の中へどうぞ。護衛の聖騎士たちは別室で待機してもらいますか?」
「そうだな、聖国側は私とマリー司祭でいいだろう」
「え、私もですか?」
「そうだ。君も来るんだ」
「ひぃん」
確かにこの前話は聞いてたけど同席してもらう意味あるのか?まあ外野は黙っておくのが吉か。
クレイヴァン卿に案内されて、ぞろぞろと城内を歩き、案内されたのは円形の机が置いてある大きな部屋。部屋の奥に教皇とマリー司祭が座って対面する形でアンリ、そして俺。入口近くにはクレイヴァン卿が立ってる形になった。
「さて。早速だが相談役の出自が聞きたい。何分黒髪は魔族がいるとしても、黒髪黒目は珍しいのでね」
アンリの方をチラと見ると、自己紹介してくれと顔が言っていた。
しかし魔族が黒髪ってのは初めて聞いたな。最初に城につれてこられたとき何も言われなかった気がするんだけどな。
「改めましてレイシア王国相談役、波多江です。恐らくですが、魔王と勇者と同郷?だと思われます。魔王は使ってる文字から同郷だと断定できますが、勇者は共通点が黒髪ってだけですから恐らくってことで」
「あいわかった。本の文字が読めるのも同郷なら納得だ。では話を進めてもらえるかな」
「まずですが、内容をお伝えするに当たって、彼に一通り本は読んでもらってます。ご了承を。それではこの前の話の続きからでいいですか?」
「ええ。心の準備もしてきました」
「ではよろしく頼む」
「まず勇者の人物像ですが魔王の手記を見る限り、とても神聖視されるような人物ではなかったと思われます。現代では奴隷制は廃止されているそうですが、まだ奴隷性のあった時代、勇者は奴隷の女性を侍らせていたと書かれています。そして……まあこれは伏せても仕方ないか。オビヤ教は元々魔王の作った宗教を母体として、勇者が自分を崇めるように作り変えた宗教らしいということです。勇者側の書物がないため、あくまでも魔王側からの見解になりますが。ここまででなにかあれば」
何かあればもクソも、自分の所属してる宗教の根幹に関わる話だし色々思う所あるだろうなぁ。
「う、うむ。あくまでも片側からの見解ということだが、これは正直言って表に出すことができない話だ。伝承にある勇者が自分のためにもとある宗教を作り変えたなど、信仰しているものになんて言えばいいか分からん。だが徐々に作り変えていかねばならぬのかもしれん。しかし、魔王は何を崇めるために宗教を作ったのだ?」
「それに関しては神らしいですね。少しオビヤ教について勉強させてもらいましたが、今の体制のように神の代行者として勇者を崇めるのではなく、神を直接崇める母体を作ったそうです。民衆に救いをとかなんとか書かれてましたけど実際のところどうなのか、当時を生きた者がいないのでなんとも言えません」
「魔王の手記ではそういう事になっているのだな。しかし神を直接崇めるか。もしかしたらそのほうが救いがあるのやもしれんな」
「次、行きます。まず魔族についてですが、魔族は悪というのは世界共通の認識でいいですか?」
「ああ」
「うむ」
両名ともに認識の相違なし。
「まず。魔族ですが、手記では魔王と勇者の眷属のような認識らしいです。どうも魔王が最初人助けで眷属化みたいな事をした結果、変化として髪の色だけが黒くなってしまったようです。経緯はわかりませんがいつの間にか勇者も同様に魔族と呼ばれる眷属みたいなのを増やしていったらしいです。なので、魔族には、魔王の眷属と勇者の眷属の二種類がいるみたいです。たぶん魔族なんて呼ばれ方をしているからみんな魔王に属するもので一括りに魔族なんて呼ばれているのかもしれませんね。そして勇者ですが魔王側の魔族を積極的に狩っていたようです。一見すると名の通り勇者らしい行動なのかもしれませんが、要は人狩りですね。魔王側の魔族は魔王に恩もあり比較的大人しかったようです。勇者側はあまり良くは書かれてませんでしたね。勇者が魔族刈りしたのもあって現代で力を振るっている魔族は殆どが勇者側だと思われます。一気に話してしまいましたが、ここまででなにか」
「じょ、情報量が多い。まず、魔族は魔王側と勇者側の二種類いて?現在力を振るっているのは勇者側の魔族だと?これではどちらが魔王か分からんではないか……」
「私これ聞いてていいのかしら……」
そうだよなー。そうなるよなー。ぶっちゃけここは話すか迷った。でも魔族のルーツだし話さないといかんだろう的な流れになったから包み隠さず話してるし。教皇の考えてる通り、勇者のほうがよっぽど魔王っぽいよ。本当に。
「それとこの本に書かれていた挿絵の図ですが、未完成の蘇生魔法のようなものでした。この本は御存知の通り聖国からカルロが盗み出した物で、訳あってこの国に回ってきました。カルロはアンデッドを率いて山賊のようなものになっており恐らく独学で未完成の蘇生魔法を死霊術として昇華させたものと思われます。なので、この本は人の目に触れないようにしておくのがいいと思います」
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「と、まあ、長々と色々言いましたがどうもこの手記は、魔王の日記っぽいので残念ながら信憑性は高いと思われます。ええ、残念ながら」
そう、この手記と呼ばれるものはなんのことはないただの魔王の日記だ。教皇に話すうえでレイシアに伝わっていた日記の情報も合わせて話しているが、こっちにも日記があることは別に話さなくてもいいだろう。
けど二つの国に同種のものが残されているとすると、もしかしたら他の国にも同じく日記が残されてるのかもしれないなんて思ったりする。
「私はこの情報を信徒に何と話せばよいのだ……とても表に出すことができない話が多すぎる」
「さあ、そこは聖国の問題ですから。まあ勇者も恐らく信仰を徐々にすり替えていったんでしょうから同じようにすり替えていけばいいのでは?」
これはもう長期的に考えていかなきゃいけない問題だろう。そんなすぐに信仰を勇者から神に変えるんてできっこないだろうし。
「さて、マリー司祭。一応確認だが今までの話は本当かね?」
「ええ。嘘は感じられませんでした」
「あまりにも衝撃的な話だったから、私の感知能力がおかしくなってしまったのかと思ったが、そういう訳ではないのだね……さて、その日記だが封印指定にしようと思う。今までの話も問題はあるが、読める者がいなければなんてことはない。実際、解読は我が国では長年できなかったわけだ。問題なのは蘇生魔法だ。未完成とはいえ、存在を耳にするものがいれば是が非でも欲しくなる代物だろう。行き着く先が死霊術だったとしてもだ。死者は蘇らない。これは絶対の法則だ。焼いてしまいたい気持ちもあるが、三百年前の本がこんな綺麗に残っているということは、何かしらの魔法で保存されている可能性がある。破棄は難しいだろう。ではこの本は予定通り聖国に持ち帰ろう。持ち帰りたくないがね……」
そんな厄ネタ持ち帰りたくないよな。俺もなるべく関わりたくないけど、どうもレイシアにあった日記と聖国の日記じゃテンションが違いすぎる。多分かなり巻数飛ばしてるんだろう。じゃなきゃギャル文字から普通の日本語にいきなり変わるなんてことはないと思う。
「マリー司祭。試しにこの本に火を放ってみてくれないか」
「えー、嫌ですよ。それじゃ私が実行犯になっちゃうじゃないですか」
「教皇命令だ。ものは試しだ、構わないかねレイシア国王」
「ひぃん」
「まあ、これだけ厄介な本処分できないとなると困りますからね。机が煤まみれになるのは嫌ですが、眼の前でこの世から消え去るのなら仕方ない。いいですよ」
渋々マリー司祭は本に火の魔法を使って着火するが、透明な膜に阻まれているような感じで本に火が点くことはなかった。そんな簡単に処分できたら苦労しないわな。
しかし、どういう原理で保護してるんだろう。
「因みになんですが、解読できなかったとのことですが本の文字を見てなにか思うことはありますか?」
「正直言ってこの文字は理解することが出来ないように感じるよ。なんと言えばよいのかな。文字としては認識できるが、認識できるだけ。まるで記号でも見ているかのような感じになる」
教皇はそんな感じか。
「私は意味がわかりません。全く読める気がしません!」
そんなことでドヤるなよ、マリー司祭……
「うーん。そうだね、私は読もうとすると何となく嫌悪感を感じるかな」
アンリもか。そして俺だけが日本語だから読める。
「魔法については全然わかりませんが、もしかしたらこの世界の人には読めなくすることで存在を補衣装してたりするんじゃないですかね。わかりませんが」
「魔王のすることだ。そういうのもあるのかもしれんな。まあどちらにせよ破棄できないなら封印するしかあるまい。我が国にあったものだ。責任持って封印しよう。さて、レイシア国王。先日は我が国の暗部が迷惑をかけた。要求のあった通り、通信用の水晶を持ってきた二対ある。どうぞ収めてくれ。製法は明かすことは出来ないが、完成品なら問題はない」
「これは教皇。確かに頂戴しました」
賠償に使われるって買ったら相当高いんだろうなそれ。
「さて、それでは私は聖国に戻ってこれからについて考えねばなるまい。マリー司祭は引き続きレイシア国に残って収穫祭の下見などをしなさい。それと相談役殿を守りなさい。君の結界があればある程度のことから相談役殿を守れるだろう」
「え、私聖国に帰っちゃだめなんですか?」
「駄目だ。聖国に帰っても君のすることはないだろう。仕事をしたまえ」
「……わかりました」
「え、なんか厄介者押し付けられてませんか?」
「いやいや、そんなことはない。マリー司祭は魔法や結界に関しては優秀だ。きっと君を守り抜いてくれるだろう」
「いや、俺にはシルビアって護衛がいるんで……」
「いいや、シルビア殿の話は聖国にも届いているが、君は自分が重要な人物だということが分かっていないようだね。護衛は何人いてもいいのだよ」
アンリ……。受けなさいって顔すんなよ。
「それに君は人を使うのがうまいと見た。マリー司祭をうまく使ってくれることだろう」
波多江は逃げ出した。しかし回り込まれてしまった。
クソ、断る理由が見つからない。
「わかりました……」
「ちょっと残念がらないでもらえますか!酷いですよ」
「さて、私は帰るとしよう。マリー司祭をくれぐれと頼む」
「では、騎士に案内させます。事後承諾にはなるがマリー司祭はウィークス卿の家に厄介になるといい。護衛もあるならちょうどいいだろう」
「宿代がかからないのはいいですね!ついでにご飯があると嬉しいです!」
「うるさいぞ、マリー」
「ひぃん」
厄介なものを押し付けられてしまった気がする。シルビア家に住人が増えちまったよ。すまんシルビア。俺じゃ断りきれなかった。




