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魔王の残したその軌跡  作者: 椎谷
第一章 『初めての異世界』
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差し向けられた者と待ち受ける者

「研究者さん、おはようございます」


「研究者さんて、俺のことか?」


「はい!昨日、自分のことを研究者とおしゃっていましたから!」


「その研究者ってのはやめてほしいな。せめて相談役とかにしてくれ」


 研究者も相談役も肩書に過ぎないのだからなんて呼ばれようとあんまり変わらない気もするけど、研究者ってのはなんか変な感じがする。相談役も十分変だけど。


「んで、マリーさん。あんたほんとに一人できたのか?」


「ええ、一人で遠路はるばる来ましたとも。どうしてですか?」


 どうしてもこうしても、あんたが抜けてそうだから。なんて口には出来ないな。なんてごまかすかな。


「探してる本って、国の大事なものなんだろ?結構な大役だと思うんだが、それを一人で探しに来ましたって見つかって紛失でもしたらどうするんだ。と思ってな」


「見つかったらすぐに国に帰りますとも。それにこう見えても戦闘には自信があります。襲われたとしても何のそのです」


「またなんで急に戦闘の話になるかわからないが、見たところメイスが主な武器なのか?」


「メイスだけじゃないですよぉ。結界も張ることが出来ますし、その他の魔法も得意です。発動速度に関しては国一ですから、負けませんよぉ?」


「国一か。すごいな」


 メイスをブンブン振り回して危ないことこの上ない。

 聖国の人口が如何ほどか知らないが、国一って言ったら相当なんだろう。


「結界ってのはどんな感じのもんなんだ?」


「こんな感じですね」


 両手を左右に広げたマリーさんの周りが少し歪んで見える。結界っていうから、なんかこうわかりやすく色のついた立方体が術者の周りに展開されてザ・結界みたいになるもんかと思ったら、よく見ないとわからないようなもんなんだな。

 歪んで見えるところをノックしてみるとたしかに壁がある。相変わらず魔法ってのは便利なもんだな。スコップでもあったら上から土でもかけて埋めてやりたいな。

 あたりを見回してみると止まってる荷馬車に、スコップが乗ってるじゃないですか。


「よし、そこを動かないでくれ」


「安心してください。動けません」


 動けないというマリーさんをよそに、スコップを拝借して土をおもむろにかけていく。


「ちょっと!なにするんですか!?埋めないでくださいよ!動けないんです!」


「風でもなんでもおこして、土を吹き飛ばせばいいだろ?魔法得意なんだろ?」


「同時に魔法は使えないんですぅ」


 やっぱダメかもしれん。


 -------------------


「全く。ひどいな君は。動けないヒトを結界越しとはいえ埋めようとするとは」


 警邏中のシルビアが合流して、マリーさんを土から救出してくれた。

 もちろん土をどける気なんてサラサラなかったわけだが。魔法を同時使用できないほうが悪い。


「ホントひどいですよ相談役さん……あんまりひどいことされるとこうですよ」


 またもやブンブンとメイスを振り回し、空を切るメイスは手元を離れ空を飛ぶ。


「そのメイスは飛び道具か?」


「そんなわけないじゃないですよ。相手を撲殺するためのものです!」


「そのわりには飛んでいってるけどな」


「歩いている人にあたっても困るから吹っ飛ばさないでくれマリー殿」


「シルビアさんまでぇ」


 飛んでいったメイス回収したマリーさんが嘆く。

 どう考えてもあんたが悪いと思うぞ。すっぽ抜けるなら振り回すなよという感じだわ。

 

「それで?結局何をしている時間だったんだ?」


「聖国から持ち出された本を探しています!相談役さんに意地悪されてましたが……」


「あー、実はその本、心当たりがあるって言ったらどうする?」


「本当ですか!?それならもっと早く言ってくださいよ!」


「聖国でもともと暗部だったって奴がこの国で盗賊やっててな。そいつが置き土産って言って本を渡してくれたんだよ。ひょっとしてそれかなと」


 嘘は言ってない。大事なことは言ってないだけだ。


「私も詳しくは聞いてないんですが、なんでもこの世界の言語ではない文字で書かれていて、禁忌について書いてある本だとか」


「とりあえず本は今、王城にあるからアンリに話して持ってくるよ。夜にまたこの場所でいいか?」


「ええ、わかりました」


 -------------------


「と、いうわけで、本返そうかなと」


 シルビアとともに王城に向かい、アンリに流れを話した。


「ふむ。わかった。元々この国のものではないからね。しかし気をつけくれ?あの娘一人で回収に来たとはとても思えない。本人には聞かされてないが暗部が来ている可能性もある。まあ本当に来ていたら大問題だがね」


「まあ、なんとなくはどうしようかなってのは考えてある」


「本当に気をつけてくれよ?君は代えの利かないヒトなのだから」


 まるで俺以外は替えが利くみたいな言い方だな。たしかに別世界の人間なんて代えは利かないけど、代えの利く人間なんて存在しないだろうに。


「シルビアって全速力出せるまでにどれくらいかかる?」


「二足ほどか」


「化け物め」


「なにか言ったか」


「なんでもないです」


 シルビアにはやってほしいことと待機していてほしい場所を伝えたが、また怪訝な顔をされた。


「君は卑怯という言葉を知らないのか?」


「相手は暗部なんだろうし、正々堂々やる相手か?騙しも不意打ちもありみたいな連中だろ多分」


「全く」


 ブツクサと文句をたれながらも指示を聞いてくれるのはこちらとしてはありがたい。こっちはシルビアとマリーさんに命を預けるんだ。指示を聞いてくれないと困る。心配はマリーさんだが……

 どちらかと言うと今回直接命を預けるのはマリーさんなのだ。相手が思い描いた通りに動くかはわからないが。


 -------------------


 陽はすでに落ちて、辺りは暗く静まり返り、日照石が僅かに通りを照らしている。すでに広場に人通りはなく、あたりに住んでいる人はもう夢の中だろう。

 なんとなくあたりを見回してみるが、誰かが潜んでいるかはわかるはずもない。

 暗闇にふわふわと日照石の明かりが揺れる。どうやらマリーさんが来たようだ。


「こんばんわ、相談役さん、本は持ってこれましたか?」


「ああ持ってきたよ。これでいいのか?」


 ()()と書かれた面をマリーさんに向けて見せる。

 マリーさんは日照席を前に出し表紙をまじまじと見つめる。


「見たことない文字……多分それです!ありがとうございます!これで任された仕事はこなせました!いやー美味しいお酒が飲めそうです」


「ちなみに中身も間違いないか確認してくれ」


 適当にページを開いて挿絵があることを確認して再度マリーさんに見せる。


「禁忌に関連する挿絵……文字も同じく見たことのない文字。おそらく間違いないと思います」


「後で違いましたって言われても困るからな」


「そう言われても見たことないのでおそらくとしか言えないですね」


「わかった。ちなみにだがレイシアにはこの本を解読する準備がある。後で上にどうするか確認してみてくれ」


「本当ですか!?わかりました。後で確認してみます」


 マリーさんに本を渡そうと手を前に出すが、本は手から滑り落ち地面に落下する。


 ・・・・・・・・・


 俺達はマリーの後をつけ広場に潜んでいた。司令塔の俺と手足となる暗部が二名。


 「(男の実力はわからないが奇襲には反応できないだろう。となれば実力のはっきりしてるマリーを二名で狙い、俺があの男を始末すればいいか?)」


 暗部は暗闇の中でもお互いの合図が確認できるよう訓練されている。暗視の技術も同様だ。

 静かに手を上げ指で合図を仲間に送る。


『合図後二名はマリーを始末。俺は男を始末』


 これでいいか。俺達としてはマリーは確実に仕留めたい。普段はポンコツと噂だが、戦闘になると話が変わる。

 単身で魔物の群れと、その長の魔族を完封した実績がある。

 任務で魔族の始末を任されたことがあるが、そのときは部隊の四分の一が死んだ。それを一人で完封できる実力の奴なんざ、いくらポンコツと噂でも警戒せざるを得ない。

 マリーは片手が塞がっていて本を受け取れば両手が塞がってちょうどいい。

 男とマリーが会話を始め、件の本も目視できた。受け取るタイミングを狙うのがいいか。各自に構えるよう合図を送る。

 男が本をマリーに差し出すが、本は男の手から滑り落ちた。

 落とした本を拾うため二人共屈んだ。


「(今だ!)」


 攻撃の合図を送り暗闇から三つの影が飛び出す。


 ・・・・・・・・・


 本を拾うため屈んだところ、マリーさんも本を拾おうと屈んだ。


「結界を張れ!早く!」


「え?え?はい!」


 マリーさんの国一の速度というのは伊達ではなかった。

 マリーさんの背後には、歪んだ空間にナイフを突き立てる影が二つ。振り返れば俺の方にも一つ影が歪んだ空間にナイフを阻まれていた。


「なんですか!?なんなんですか、これ!?」


「はぁぁぁぁぁ!」


 最大まで加速したシルビアがマリーさんの背後の影を一つ真っ二つにした。


「ちっ!シルビア・ウィークスか!奇襲に奇襲を重ねてくるとはなんて奴だ!」


「さて、残る二人で私の相手をするか?」


「正面からじゃ無理だな。だが時間は俺達の味方だ」


 そう告げ暗部たちは闇に紛れ姿を消した。

 次の瞬間シルビアの剣から火花が散る。


「結界の応用か!器用な連中だ」


「殺気もないのによく防ぐ」


 防戦を強いられているシルビアの姿を、飛び散る火花が闇夜に浮かび上がらせる。

 シルビアの剣は空を裂き、何かを斬ることは叶わない。

 近接に織り交ぜて地面には数本のナイフが転がる。刃の部分を見るとわずかに濡れているように見えた。何らかの毒が塗られているようだ。


「不可視の攻撃には流石に防戦一方だな!」


「いや、徐々に、慣れて、来た!」


 次の瞬間シルビアが剣を振るうと、見えないはずの暗部をナイフごと吹き飛ばし、すごい衝撃音とともに壁まで吹き飛ばした。

 今まで防戦一方だったシルビアが、徐々に攻勢に出始めたのだ。


「ちっ!こんな化物の相手してられるか!」


「逃がすか!」


 姿の見えない暗部を感覚で捉え、今度は暗部のほうが防戦を強いられている。

 暗部はシルビアの攻撃を受け流すことに集中し、結界にリソースを割くことは不利と判断したのか姿を表し防御に結界を使い始めた。


「終わりだ!」


 シルビアの剣が淡い光を纏い、結界ごと暗部を叩き斬った。


「シルビアさん強すぎませんか?」


「俺もちょっと引いてる」


「聞こえているぞ!味方に対してその物言いはどうかと思うぞ」


「すまん。最後の剣が光ってたのは何だったんだ?」


「魔力をまとわせた光だな」


「へぇ。それで結界斬れたのか」


「初めての試みだったが斬りやすくなる程度ではないか?」


 ハイセンスゴリラだな。


「さてさて戦利品はと」


 改めて叩き斬られた暗部の装備品を漁る。

 暗部の装備品はよくわからない液体と投げるのに使っていたであろうナイフ、それと割れた水晶玉。

 水晶玉を手に取ってみるが、何の変哲も無いただの水晶玉にしか見えない。

 まじまじと水晶玉を見ているとマリーさんが声を上げる。


「それ、通信用の水晶ですね。割れてしまって使えませんが、指示役との連絡用でしょうか?」


 そう言われて無言でシルビアを見る。


「な、なぜ私を見る!割れているのは私のせいではないぞ!きっと倒れたときに地面に当たって割れてしまったんだ」


「まあ過ぎたことを気にしても仕方ないな。俺もこんな物があるなんて思っても見なかったしな」


 何かしら持っているだろうとは思っていたが、こんな物を持ってるとは想定外だ。しかし通信手段が水晶とは魔法様々だな。


「とりあえず落ち着いたことだし、マリーさんは本を持っていってくれ。後解読の確認も忘れないでくれ。んで、この死体どうするんだ?派手にぶちまけてるけど」


「騎士団で預かろう。聖国と揉めることはないだろうが、一応何かあったときの証拠になる」


「じゃあ頼むわ。緊張の糸が緩んだせいか眠くなってきた」


「結構図太い性格をしているのだな君は……」


「うーん、人が死ぬのなんて初めて見たけど、意外となんともないらしい。てことで一足先に家に帰らせてもらうわ。と思ったけどなんかあっても怖いし、詰め所まで一緒に行くわ。それじゃ、マリーさん」


「また明日ですね」


 シルビアとともに詰め所へと歩を進める。


 -------------------


「結局収穫は死体だけか。あとはマリーさんが上に連絡して解読をどうするかだなー。個人的には解読というか内容は聖国も把握してたほうがいいんじゃないかと思うけどな」


「実際はもう読んでいるのか?」


「んー。いやちょっと読んだくらいだな」


 もう読み進めてしまっていることはシルビアに伏せておこう。解読の席が用意されたらその時に初めて読んだ感じが良い。


「さて、私は今詰めている者に事情を話してくる。君は底で座ってでもいてくれればいい」


「わかった」


 長椅子に腰を掛け、息をつくと睡魔が襲ってきた。


「思ったよりも疲れてんのかな。ちょっとだけ寝るか」


 上体を机に投げ出し目を瞑った。

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