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「やあ、ハタエ。盗賊退治お疲れ様。得られるものはあったかい?」


「そんなかわいいもんでも無かったけどな。いやー、これでもかってくらい大きな収穫はあったね。直接命の危険がある場に赴いた甲斐があったわ。これだよこれ、俺の国の言葉で書かれた日記」


 若干興奮気味に置き土産の本をアンリの前に差し出す。

 アンリは本を見た瞬間真顔になり、机の引き出しに手をかけた。


「それは一体どうしたのかな」


「カルロ……盗賊の置き土産だな。元々は聖国って国の暗部だったらしいんだが、口封じかなんかで殺されちまったよ。持って帰ってきた遺体はカルロと口封じしたと思われる暗部のだな。カルロが死ぬ前に渡してきたんだよ」


「そうか……実はね以前からハタエに読んでもらいたいものがあったんだ。まあ、私としてはいつでも良かったんだが、これもなにかのめぐり合わせだろう。その本は、これと一緒かな?」


 そう言ってアンリは引き出しから本を取り出しこちらに向かっておく。

 出された本のタイトルは日記。カルロに渡されたものと筆跡も似ていた。


「ああ、一緒だな。文字も似てる。同じ人が書いたんじゃないのかこれ?」


「これもね建国から伝わっているものなんだ。少しぐらい話を聞いていると思うけど、この国を作ったのは初代国王と魔王なんだよ。これは間違いないはずだ。そんな人物が遺したとされる本と、似た筆跡のその本。果たしてこれは偶然かな?」


「聖国も魔王が作った?でも、魔王って名前がついてるくらいなんだから聖国ってのは魔王を目の敵にでもしてるんじゃないのか?」


「近からずも遠からずかな。その様子だと君の世界では魔王という名前は良くない名前みたいだが、この世界では記号みたいなものだ。魔王のほうがヒトに優しかった。勇者はよくわからないね。それこそ聖国にでも行けば何かしらあるのかもしれないけど」


 記号ねぇ。勝手に悪そうなイメージしてたけど、実際はそうでもないのかな。


「聖国っていうくらいなんだから勇者関連の国なのか?いやこれも憶測に過ぎないか」


「ちなみに聖国では、オビヤ教って宗教があるね。我が国もオビヤ教が主流だけどね」


 オビヤ、オビヤか。なんか珍しい苗字にありそうな名前だな。もし勇者か魔王のどっちかが名前つけたんだとしたら相当な自己顕示欲の塊なのか?


「源流の違う本が二冊。でも筆跡は似てる。勇者を祀る国に遺されたものか、魔王が作った国に遺されたものか。とりあえず読んでみるか?」


「実際、ありだね。ただいまこの場で読むのは待ってほしい。こちらの本は、何度か開いたことはあるが、そちらの本はなにか特殊な仕掛けがしてあるかもしれない。場を整えてから読むことにしよう」


「そうだな」


「ちなみにこの本のことは誰が知っている?」


「クレイヴァン隊だけだな。一応クレイヴァン隊にも箝口令は敷いてある。その場で読んだのは表紙だけだ」


「懸命な判断だ。さて、随分と疲れた顔をしている。我が国の騎士たちは平気だろうがハタエは休んではどうかな?」


「超人たちと一緒にされても困る。なんだかんだ徹夜になっちゃったし今日は休むことにするわ」


「それがいい」


 ・・・・・・・・・


「陛下、いかがなされるのですかな」


「いやあ、ハタエは本当に面白いことを持ってきてくれる。もちろん、私も解読の場には同席するとも。物による記録を残さない代わりに私の頭で記録する。翻訳して書き残すかどうかは内容を聞いてから判断しよう」


「陛下はハタエ殿が来てから変わられましたな。生き生きとしてらっしゃる」


「仕方あるまい。ハタエが次々に面白いことを持ってきてしまうのだから。私は古いものも好きだが、同じように新しいものも好きだ。次は何をしてくれるのか楽しみで仕方ない」


 実際ハタエは本当に面白い。本人はどこか遠慮しているが、誰の知識であろうとそれをもたらしたのはハタエなのだから胸を張っていればいいと思う。

 塩の使い方なんて素晴らしかった。今までは嗜好品ということであまり使われなかったが、いざ料理に使ってみると今までのものが味気なく感じてしまう。

 ハタエのお陰で我が国で塩の産業が興ると知って、胸が踊ったとも。

 今まで他国から買うことしか出来なかった塩が我が国で採れるとなれば、塩の供給は上がり、ハタエが手を入れた干草亭から塩の味は広まり需要も上がるだろう。

 お忍びで一度行ったが、とても素晴らしい料理だった。


「また干草亭に行ってみたいものだ」


「陛下……」


「冗談だ。まあハタエがどこかに手を入れればまた行くことにはなると思うが」


「それならば視察ということでなんとかなるやもしれませんな」


「そういうことだ」


 料理や産業もそうだが、政策の面でもハタエは役に立ってくれている。前例がないものばかりで、なかなか他のものからの賛同は得ることができないが、何回か続けていくうちに通るものも出てくるかもしれない。

 国を上げて、子どもの学習水準を引き上げるのなんて私はいいと思ったのだが、なかなか賛同は得られないものだ。


「クレイヴァン卿、私はハタエの前では上手くやれていると思うか?なにせ気軽に話せる対等な立場の相手など今までいなかったのでな」


「ハタエ殿の感触を見るにいいのではないかと思います。ハタエ殿も柔軟に対応できるお方のようですし、問題ないかと」


「ははは。友というのはいいものだな」



 ・・・・・・・・・


 目が覚めたら夜になっていたので、今日も今日とて干草亭。

 芋の素揚げをつまみながらエールを飲みひとりごちる。


「後日場を設けるって言ってたけど、どんな場になるんだろう?王城になんか特別な部屋でもあるのか?」


 結構気になるところではある。まあ、当日になればわかるか。

 ふとあたりを見回してみると、どの席にも芋の素揚げがテーブルに並べられていた。


「これは、成功だな。そろそろ芋シリーズ第二弾でも出してもらうか?」


 芋シリーズ第二弾は、芋の薄揚げ。いわゆるポテトチップだ。


「おう兄ちゃん。新しい料理のことでも考えてんのか?」


「びっくりしたな。ハッチ、その顔で覗き込まないでくれ。ハッチは強面なんだから驚くぞ。まあそんなところだ。次は薄揚げだ。名前の通り薄く切って揚げて、塩をかければ完成だ。いい感じに薄く切れば、パリパリなもんが出来上がるぞ」


「ほう、素揚げの次は薄揚げか。よく兄ちゃんはそんな次から次へと料理を思いつくな」


「いや、俺が考えたわけじゃなくて、俺の国ではありふれていたもんだよ。似たようなもんが食べたくて作ってもらってる感じだな」


「誰が考えたものだとかは正直あんまり興味がねえな。いま兄ちゃんが俺に教えてくれる。それだけで十分だ。さて、今試しに作ってみるから待ってろ」


 強面のハッチは薄揚げづくりに入った。

 入れ替わりでマリカがやってきた。


「なになに、お兄さんまた新しい料理教えてくれたの?」


「ああ、今ハッチが作ってるぞ。今度は薄揚げだ。素揚げとは違ってパリパリで美味いはずだ」


「いやー、美味しそう。早く私も食べたいわ」


「すぐに食べられると思うぞ。薄く切るのはめんどくさいが、揚げる時間はかなり短くて済むはずだからな」


「おう、マリカ。今兄ちゃんに新しいの教えてもらったんだ。食べてみたんだが、かなり美味いぞ。ほら食ってみろ」


 俺の分……


「美味しい。私は薄揚げのほうが好きね。パリパリしてて美味しい」


「なんだぁ?新しい料理か?俺にもくれよ」

「俺も」

「俺も」


 騒がしくなってきた。正直、干草亭の料理は冴えなかったからな。その点、素揚げと薄揚げは塩さえあれば誰でも簡単に作れるのは大きい。

 あれよあれよという間に、全てのテーブルから注文が入り、ハッチは一心不乱に薄切りを作っている。


「いやー騒がしいな」


「何言ってんだ。兄ちゃんのおかげだろ。正直今までの俺の料理はあんまり美味くなかったと思うんだ。それがどうだ?兄ちゃんが来てからこんなにも料理を注文してくれて、客も増えた。ありがたいことこの上ねえ」


「そうよ。お兄さんが来てから、いっつもお店が賑わってて嬉しいわ。それもこれもお兄さんのおかげよ」


「そ、そうか。なんだか変な気分だな。自分の知識でもないのにそう持ち上げられると」


「さっきも言っただろ。気にすんなって兄ちゃん」

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