表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不殺の暗殺者と呼ばれた男 ~スキル:タコは思っていた以上に高性能でした~  作者: 川原 源明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/35

第5話 VS悪魔

 ズズ……ズルリ……


(来たか)


 湿った空気を切り裂いて、闇の底から“それ”が這い出してきた。

 灯りの届かぬ洞窟の奥、揺れる松明の光がようやくその姿を浮かび上がらせる。


 それは、確かに“人の形”をしていた。

 だが、目の奥に宿るべき光はなく、ただ“深淵”のような黒が広がっている。

 口は裂けているのに、そこにあるはずの歯も舌もない。ただ真っ黒な闇が、空洞のようにぽっかりと空いていた。


 その姿は、まるで人の殻をかぶった“異物”だった。


「……なんだ、あれは」

 自然と漏れた言葉に、脳内にラメールの声が静かに響く。


『あれは“悪魔族”。この世界に存在してはいけない“異端”だよ』


 その口調はいつもの明るさを潜め、真剣な色を帯びていた。


(こいつが、盗賊団を裏から操っていたリーダー……)


 人ではない。ならば、遠慮も不要だ。


 ――殺す。


 俺は静かにナイフを構えた。


「カモフラージュ、軟体化、吸盤構造」


 スキルを同時展開。

 身体の輪郭がぼやけ、皮膚が岩肌に馴染んでいく。

 体がしなるように柔らかくなり、掌と足裏に微かな吸着感が走る。


 壁を走るように移動し、奴の背後を取る。

 “気配”を完全に消し、音すら立てない。


「……見つけたぞ……外の空気の匂い……お前だな?」


 ぴたり、と動きが止まる。

 奴は俺の方を振り返った。まるで、俺の存在を“嗅覚”で探知したような動き。

 カモフラージュすら通じない――そんな異質な能力を感じさせた。


(視覚じゃない。感覚が……違うのか)


 それでも怯むわけにはいかない。

 俺は唾液腺に魔素を集中させ、《腐蝕毒》を生成。

 ナイフの刃にそっと塗り込む。


(いくぞ――!)


 軟体化で重心を低くし、一気に距離を詰めた。

 視認と同時に一閃。狙うは奴の右腕――


「ハッ!」


 シュッ――!


 しかし、刃は届かない。

  腕が骨のように“折れて”、明らかに人間ではあり得ない軌道で避けられた。

「無駄だ……肉の刃など、俺には届かん」

「……試さなきゃ分からないだろ」

 くっ――一撃目は不発か。

 だが、体が勝手に動いている感覚があった。迷いはなかった。

(……そういえば、昔からずっと格闘技ばっかりやってたな)

(小中の剣道で“間合い”を、高校の柔道で“崩し”を、大学の合気道で“流し”を――)

(あの頃はただ夢中で打ち込んでただけだったけど……まさか、異世界で活きるとはな)

 すぐに反転。姿勢を低く保ったまま、地を這うように側面へ移動。

 ナイフを握り直し、気配を殺して――一気に踏み込む。


 だが、奴も応じるように動いた。

 地を這うような低い姿勢で、こちらの動きに合わせて回り込んでくる。


(この動き……ただの化け物じゃない。戦闘経験がある?)


 刃と拳が交錯しそうな距離で、俺はわずかにバックステップ。

 その直後、奴の手が鋭く地面を薙ぐ。

 その手には爪も刃もないはずなのに、岩を裂くような鋭い音が鳴った。


 (ヤバい……あの一撃、喰らったら即アウトだ)


 空気が震えている。

 奴の周囲にだけ、空間が歪んでいるような違和感。


 そのまま奴が動く。


「――アアアアァアアッ!!」


 咆哮とともに、腕を振り抜いてきた。

 避けきれず、俺は左肩をかすめる形で喰らう。


「ぐっ……!」


 地面を転がるように着地。視界がぐらついた。


(痛みはある……でも、致命傷じゃない。まだ動ける)


 ナイフを構え直し、息を整える。

 相手は強い。だが、負けられない。


 軟体化を再展開。肩の筋肉がしなり、痛みが引いていく。

 魔素を再度込め、腐蝕毒を強化。


(次で、決める――!)


 吸着スキルで壁を駆け上がり、奴の頭上から滑空。

 カモフラージュ状態のまま、真上から脇腹を狙ってナイフを突き立てた。


 ザシュッ!


「グ、アアァァァッ!!」


 奴が咆哮をあげた瞬間、毒が全身に巡っていく。


 皮膚が裂け、ひび割れ、内側から闇のような“黒い霧”が噴き出した。


 それでもなお、奴は反撃しようと腕を振り上げた。


 ――だが、俺はすでに背後に移動していた。


「終わりだ」


 最後の一撃――心臓部に渾身の力でナイフを突き立てる。


 グサッ!


 闇の体に、確かな“抵抗”を感じたあと、それは崩れ落ちるように膝をついた。


 次の瞬間――


 シュウウウウ……


 奴の身体が、音もなく“灰”へと変わっていく。

 塵となり、空気の中へ、消えていった。


『……やったね』


 ラメールの声が、今度は静かに、柔らかく響いた。


「……ああ、なんとか……な」


 ナイフを下ろし、大きく息を吐く。

 まだ心臓は早鐘のように打っている。

 だが、それも“生き延びた”証だ。


 (これが……この世界の“戦い”か)


 俺の“戦い方”は、まだ手探り。

 だが、確かに踏み出した。


「……これが俺の役目か。なんか、少しだけ見えてきた気がする」


「面白い」「続きが気になる」「応援する!」と思っていただけたら、


『☆☆☆☆☆』より評価.ブックマークをよろしくお願いします。


作者の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ