⑧黒鉄の巨人
「………何て奴らだ」
味方にですら容赦しない彼女の姿に、タイサは目を細めて歯を食いしばった。
「死んでもらった方が、残った77柱達に説明しやすいからね。敵に与した以上、魔王は君達を許すつもりはないってね」
そう説明すれば、日和見を決めていた者達は新生派につかざるを得なくなる。もしも彼らが勝っていれば、魔王を名乗った者は偽物だったと処理するはずだったがと、フルフルは肩をすくめて笑い続ける。
「どっちに転んでも私達に問題は無し! 私達って頭いいわぁ~。あー、戦争って本当に大変だねぇ」
鉄巨兵が痙攣する巨人に背を向けて振り返り、再びタイサ達に目標を定めた。
「さぁ、シドっち! 一緒に帰ろう!」
鉄巨兵の手がシドリーに向けられる。
「断る」
シドリーは目の前の鋼鉄の手の平を一言で拒絶する。
「私は魔王軍77柱を支える1柱として、魔王様に忠誠を誓っている。お前達の行動が例え時代の流れとして肯定されようとも、我々が少数派と言われようとも、私はお前達の手を取るつもりはない」
それに、と付け加える。
「そもそも、お前が私の幼馴染だと呼ぶ事を許可した覚えはない。いい加減、周囲の者の立場を利用して自分を特別扱いさせるように仕向ける呼び方は改めた方が良い。正直、不愉快を通り過ぎて哀れだ」
言いたい事を全て返したシドリーに対し、フルフルは無言のまま鉄の手を下げる。
「………そう。シドっちも私を避けるんだね」
鉄巨兵の握られた左右の拳が大きな音を立てて胸の前で合わさった。
「なら、もういい」
左右の鉄巨兵も動き出した。二体とも両手を広げて左右に移動し、タイサ達を半包囲し始める。
「全部………全部なくなってしまえばいい!」
フルフルの両手に電流が走り、鉄巨兵の腕が大きく振り上がった。
鉄巨兵の右拳が振り下ろされる。
シドリーが大きく後ろに跳んで攻撃を避けた。鉄巨兵の拳は石畳を大きく貫き、手首までが地面に潜り込む。彼女は相手の攻撃の後に生じた隙を突いて再び前へと駆り出すと、地面を突き刺した大木の様な腕に向かって、白銀の斧を左右に往復しながら横へと何度も薙ぎ払う。
だが、白銀の斧は鉄巨兵の腕に当たる度に複数の紫色の円が発生し、シドリーの攻撃を強制的に弾き返した。
「防御魔法かっ!?」
シドリーの一撃をもってしても砕く事の出来ない魔法障壁。金属の腕そのものに傷一つ付かなかった。
石畳の地面が盛り上がりを見せる。
「まずい!」
「タイサ! な、何を!」
タイサが咄嗟にシドリーの肩を横から突き飛ばした。そのすぐに、盛り上がった石畳が噴き上がり、鉄巨兵の埋もれていた拳がタイサを捉える。
拳の中心にいたタイサは、鉄巨兵の正拳突きの直撃を受けた。まるで小石を指で強く弾くように、タイサは広場に接する茶店の建物に頭から突っ込むと、さらに奥の建物まで倒壊させる。
まるで濡れた紙袋を指で穴を開けるが如く、建物が壁の役割を全くなしていない。
「タイサ!」
立場をすっかり忘れ、シドリーが倒壊した建物に向かって叫ぶ。
だが彼女にもそれ以上の余裕はなかった。突き飛ばされて起き上がった矢先、彼女の背後からは別の一体が拳を地面に叩き込んでくる。
「くそっ!」
地面に穴が穿たれる。前に飛び込み、前転したシドリーは地面に埋もれた鋼鉄の腕を見ながら、対応策の見えないもどかしさに苦悶の表情をつくる。




