③孤狼の戦い -幼馴染のために-
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状況は次第に不利になりつつあった。
アモンはエリゴールの槍から放たれた炎の渦を左右の爪で引き払うが、両手の開いた彼の正面に現れたバディンから飛び膝蹴りを放たれ、下顎を強制的に打ち上げられる。
「こ、この糞ガキゃぁっ!」
「はっ、その程度かい? 速さが全然足りないよ!」
バディンは鼻で笑いつつ、後ろによろけながらも態勢を立て直したアモンが振り下ろした右腕の爪を、反対の側面へと容易く避ける。
「ちょろちょろと!」
アモンがバディンの動きに合わせて上半身を捻ると、背後からの殺気に背筋が反応する。
「こいつはこいつでウゼェ!」
背面蹴りでエリゴールの槍の腹を払い、背後からの一撃を防ぐ。そして、その足のまま大きく上へと振り上げ、エリゴールに向けてそのまま踵を振り下ろす動作へと移した。
「足元がお留守!」
戻ってきたバディンが姿勢を低くさせた状態で、アモンの左足を払う。体を支えていた一本足を地面から離された彼は、成す術もなく背中を地面に打ち付けた。
「クソったれがっ!」
すぐに地面を横に転がり、腕を曲げ伸ばした反動でアモンは起き上がる。
間一髪、先程まで寝ていた場所にエリゴールが炎の槍で地面を突き刺した。
アモンが血と泥で汚れた顎を手の平の付け根で拭う。
オセが抑えていたバディンを相手にした辺りから、戦局が圧されつつあった。エリゴールの槍はその間合いの長さや威力は大きいものの、捉えられない程ではない。一方のバディンの一撃そのものは無視しても構わない威力だが、彼の動きの速さは、頭の上や顔の周りで飛び交う羽虫以上に不快であった。
払っても払ってもすぐに戻って来ては邪魔をしてくる。
ただでさえ短気なアモンにとって、彼の軽口も相まって戦いに集中できずにいた。加えて左肩は槍で貫かれ、焦げている。焼かれた事で出血こそ止まっているが、鈍痛は残り、どうしても右手に頼り過ぎる戦い方になっていた。
「………情けねぇ」
アモンは大きく一呼吸し、吐く息と共に感情の昂ぶりで余計な部分を排出させる。
両足に炎を纏わせたバディンが、兄であるエリゴールの傍に寄る。
「僕の足に穴を開けたんだ。もっとお礼をさせてくれよ」
既に傷が塞がっている右足の膝や甲を弟のバディンが指さす。
「同じ77柱でも、所詮は貧民街出身の落ち零れ。我ら兄弟の様に、生まれつき扱える魔力の高い者との間に歴然とした差がある事が理解できないか?」
エリゴールがアモンを指さす。
「好き勝手言いやがって」
アモンは歯を見せ、静かに怒りを露わにする。
三等市民の両親、貧民街出身で粗暴な狼男。アモンは自分の出自に心底うんざりしていた。生まれつき扱える魔力は少なく、黒爪の力がなければ長時間にわたって炎を生み出す事すら叶わない落ちこぼれ。
それでも彼は、日々の鍛錬を繰り返し、士官学校を落第間際の成績で卒業し、唯一の身体能力を生かした格闘術で77柱、一等市民にまで上り詰めた過去をもつ。
「シドリーも馬鹿な女だよ………魔王様の親衛隊を務めた一族という家柄なのは分かるけどさ」
時代の流れが分かっていない、わざわざ少数派にいる必要はないのにと、バディンが肩をすくめて乾いた笑いを零し、呆れた表情で息を吐く。
「………ふざけるなよ」
アモンが自分に言い聞かせるように小さく呟く。
シドリーとは小さい頃からの腐れ縁。生まれつき一等市民だった彼女は、身分に関係なく同じ学校、訓練を共にしてきた仲間である。
その幼馴染と実力に差がある事は彼も理解している。
だが、アモンが魔王派でいる理由は、今も昔も変わっていなかった。
「あいつの事を悪くいう奴は、俺が許さねぇ」
体が怒りで打ち震えている。それでも頭の中は冷静を保ち、アモンは鋭い目で両手を前にすると、腰を落として構えをつくる。
自分にできる事は決して多くはない。
アモンは右足で地面を蹴った。
狙うはエリゴールのみ。アモンは右手の爪に炎を纏わせて振り下ろす。
「愚かな………差があると分かっても尚、立ち向かうか」
エリゴールが炎の槍を掲げてアモンの爪を受け止める。同じ炎でも、異なる色が混ざり合う事なく互いに包囲し飲み込もうと、二つの炎がもがき合う。




