⑱一撃の差
「この蛮族風情が! さっさとくたばりなさいよ!」
アンドレアも腰の剣を抜き、エコーに飛びかかった。
互いに正面で剣が重なる。
だが、エコーの刺突剣は、相手の剣を受け止める事なく、火花を一度散らしてからアンドレアの剣に沿って前進し、彼女ごと距離を詰めた。
「こ、このぉっ!」
「剣だけならっ………!」
刺突剣の接近に、アンドレアは反射的に体を横に反らす。そこにエコーが腰に隠していた凹凸のついた短剣を坂手で抜き、走り抜き様にアンドレアが剣を持つ右腕の付け根、装甲の薄い脇下を切り上げた。
「ほ、本当に………本当に邪魔な女ね!」
右脇を切り裂かれた事で留め具が外れて肩当てが血と共に落ちる。だが、それを意に介さず、アンドレアは、通り過ぎようとするエコーの腹部に左の膝を立ち上げて食い込ませると、動きが止まった彼女の側頭部を剣の柄を握る拳で殴りつけた。
「あうっ!」
軽量化させてあった騎士の兜が外れ、地面へと落ちる。
エコーは体勢を崩し、左右の足が交差してよろめいた。
アンドレアはその隙を見逃さず、左手でエコーの黒髪を後ろから鷲掴みにした。兜の為に巻いてあった髪留めが外れ、彼女は長い髪をアンドレアに掴まれて爪先立ちを強要される。
「女だから殺されないと思っていたら大間違いよ!」
悲痛な表情のエコーに、アンドレアは容赦しなかった。アンドレアは右手で握っていた剣を自身の胸の高さまで持ち上げると、エコーの右腕を躊躇いもなく貫く。
「あああぁぁぁあっ!」
喉から無造作に吐かれた息が声となって響き渡る。
筋肉かそれとも神経か。彼女の右手に力が入らなくなり、指が自然と開き始め、刺突剣が柄から地面に落ちた。
「あらぁ、思った以上に良い声で鳴くじゃない………蛮族と言っても、女の声はいつ聞いても良いものね………本当に、羨ましいわ」
女になりきれない自分の事か。純粋に女を羨んでの言葉か。アンドレアは、大きく溜息をついて目を細めると、エコーの顔に自分の顔を近付ける。
そして悦に入ったような表情のまま、アンドレアはエコーの左腿に剣を刺し込んだ。
「うぅあああぁぁぁっ!」
剣が引き抜かれると、エコーの左足かから血が流れ落ち、あっという間につま先までを赤く染め上げる。
「あら、大きな血管を傷つけてしまったかしら………残念だわ、もう少しゆっくりと刺し殺したかったのだけれど………御免なさいね」
アンドレアが精一杯の高い声で笑う。
「な………るな」
「………何? 聞こえないわよ」
既に勝負は決した。アンドレアはエコーの口元まで顔を近付け、彼女の最期の言葉を拾おうとした。
「舐めるなあぁぁぁぁぁ!」
エコーは左手の短剣を振り上げ、アンドレアの右胸の上、首元の近くへと全力で突き刺した。
「………ひ、ひぎゃああぁぁぁぁ!」
短剣がすぐに引き抜かれ、アンドレアの首元から鮮血が噴出した。
エコーを掴む左手が思わず緩み、彼女はその場から解放される。彼女は地面に足をつけるなり、立つ事すら叶わずに膝をつき、ついには頭から倒れそうになる寸前で左手を前に出して受け身をとった。
だが両手で体を支える事も、両足で地面に立つ事もできない。それでも彼女は、左手の短剣を強く握りながら少しでも前へと這い続け、地面に赤い線をつくりながら、転げまわるアンドレアに近付いて行った。




