⑬ボーマは死にたくない
「どっっせい!」
振り下ろした大鉄球がロノウェイの鼻を直上から殴打する。まさか回転によって間合いを縮めてくるとは思わず、呆けていた巨人にとってはこぶし大の石が顔に直撃した痛みに等しい。
不意の一撃に、ロノウェイは片手で顔を押さえながら低い声を漏らし、数歩後退している。
「まだまだぁっ!」
ボーマの回転は止まらず、そのまま落下しながらロノウェイの足元を狙う。鉄球は鈍足な巨人の親指を狙い、見事に爪に亀裂を生じさせた。
「ぐぐぅ」
「ひぃ! 退却退却!」
呻く巨人の足元で、ボーマがそそくさと逃げ出し、距離を稼ぐ。
巨人の視線は建物の影に隠れるボーマを捉えていたが、ロノウェイは痛みが静まるまでその場を動けずにいた。
「………ほほぉ、デカくても痛みは一丁前のようですねぇ」
思った程恐ろしくないと思い始めたボーマが家屋の角から飛び出し、再び大鉄球を投げつける。そして途中で握る強さを緩めると鎖の長さが固定され、鉄球と同じ方向へと体が引っ張られた。
向かうは巨人の右側面、肩の上。どういう構造かは分からないが、大鉄球の内部から出て来る鎖の長さは異常であり、かつ力の入れ具合でその長さを決める事が出来た。
ロノウェイも持っていたこん棒を振り下ろすが、そのすぐ傍を抜けたボーマが予定通り右側面、相手の肩の上に着地する。
すぐに巨人の左手が持ち上げられ、自分の肩を叩くように振り下ろされる。
「間一髪、いや二髪ってとこかぃ!」
既にボーマは大鉄球を後方へと投げ放っており、言葉を終える頃にはロノウェイの背後へと回っていた。
彼はなるべく高い家屋の屋根を選んで着地し、大鉄球を頭上で一回転させてから後頭部を狙う。
「鉄球の突っ込みはいかがですかぁぁぁ! どっこいしょぉっ!」
巨人の頭が強制的に前へと曲げられた。余所見をして壁の角に顔を打ち付けたかのような大きく鈍い音と共に相手の体勢を崩し、ロノウェイは数歩前によろけて建物を崩しながら膝をつき、大通りに手をついた。
「よっしゃぁ、手応えあり!」
大きく息を切らしたボーマが、大鉄球の移動を繰り返した渾身の一撃に満足し、胸の前で拳を握る。
しかし彼は周囲を見渡し、自分が降りられる場所がない事に気付く。
「やっべ!」
「グググググ………」
怒りの感情を喉から鳴らして表現するロノウェイが、立ち上がった。刃物ではない為、体に傷らしい傷はないが、それでも鉄球による打撃は、確実に体の内部に響いており、付け加えて彼の自尊心も大きく傷つけられていた。
「………さて、ここからどうしよう」
恐る恐る家から降りたボーマは、改めて現実を直視する事となった。同じ手を使い続けても良いのかと悩みつつも、それ以外の手立てがない彼は、人間ならば即死してもおかしくない鉄球の攻撃を受けてもなお立ち上がる巨人の前で汗を拭く。
その巨人がボーマを見降ろし、巨大な棒を振り上げた。
「た、助けてくれぇぇぇぇ!」
思わず本音が漏れる。
だが、巨大な棒は根元から爆ぜる。
勢いのついていた棒は、爆発した部分からへし折れると、回転しながら宙を舞い、近くの建物を巻き込みながら突っ込んだ。
「仮にも魔王様の部下が、情けない声を出すんじゃねぇよ」
ボーマが見上げると、屋根の上には白と黒のメイド服を着たネコの影が映っていた。




