④無防備の証
タイサは視線を前に戻し、西門に顔を向ける。
門の前では、全身鎧を纏ったオークが槍先を上にして、左右に二体ずつが立ちはだかっていた。
だが、戦うにしては敵の数が少なく、また襲いかかる様子もない。
「統率されて命令が行き渡っているのか、それとも舐められているのか………まぁ、いきなり剣を抜かなくて済む事は助かるな」
タイサは少し前に出ると後ろを振り返った。馬車の中では、エコーやボーマが息を潜めてタイサを見ている。
手を振るわけにもいかない。タイサは何事もなかったかのように前を向き直すと、改めてオーク達のいる門の前へと向かった。
街への入口を守るオーク達が、門の前を塞ぐように横隊を作り始めた。タイサは、未だに武器に手をかけていなかったが、当然ながら警戒される。そして、タイサがさらに足を進めると、オーク達は槍を前に構えてきた。
タイサの手が盾の内側で強く握りしめられる。圧倒的不利な状況に、気を抜けば膝から力が抜けそうな感覚に陥る。戦い慣れていたとしても、唯一人で敵陣の中に飛び込む事など、狂気の沙汰以外に表現する術がない。
タイサが顔を上げると、城壁の上で数匹のゴブリン達が、弓や鉄の小球を放つ筒を向けている姿が視界に入った。
それでもタイサはゆっくりと、敵意を見せないよう自然体で歩き続ける。
瞬間。高い音と共にタイサの右肩の上を何かが高速で通りすぎた。
後ろでは地面の小石が砕け、地面に四散する。
タイサの足が止まった。
―――警告。
ゴブリンやオーク達は、口を開けて何かを叫んでいるが、タイサには理解できない。だが、何を言っているのかは想像できた。
タイサは大きく息を吸い込み、そして吐き出す。そして両手を肩まで上げ、オーク達に見せるように指を開き、手のひらを見せた。
再び足を動かす。
流石にオーク達が動揺し始めた。タイサは両手を上げる姿が意味するものが、魔王軍でも共通した認識であった事に内心安堵する。
タイサは心の中でエコーに詫びた。恐らく後ろでは、彼女が気が気でない表情をしているのだろう。そして後でまた無茶をしたと怒ってくるのだろう。後ろを振り返らなくても、タイサにはエコーの表情が目に浮かび上がっていた。
「済まない」
タイサは腰につけていた片手剣を鞘ごと外し、そのまま舗装された道の上に落下させる。背中の騎兵槍はそのままだが、相手には伝わるだろうと、タイサは外す武器を腰の剣だけに留めた。
武器を落とし、手を上げる騎士が近付いてくる。警告した城壁のゴブリン達も動揺を見せ、ついに門を守護するオークの一匹が他のオークの指示を受け、街の中へと走っていった。
その意を予測したタイサは、数歩歩くと速度をさらに緩め、槍を向けたオークが何かを強く叫び始めた所で、ようやく足を止めた。




