⑨炎の次は龍
「エコー。任せていいか」
タイサは正面で構えている派手な鳥人間に、くいと顎を突き出す。
「………勿論です。隊長もどうかご無事で」
エコーがその意味を理解する。
「当たり前だ。頑丈さでは一番だからな。攻撃だって、副長には負けないからな」
冗談交じりの言葉に、エコーは鼻で小さく笑い、肩の力を落とした。
「「当たれば」」
二人で言葉が重なる。
タイサは彼女とのやり取りに満足すると、顔を上げて口を開けた。
「シドリー! 二人で可能な限り相手をするぞ! 他の奴らは余り物だ! いいか、絶対に死ぬんじゃないぞ!」
タイサはバルバトスに声をかけ、アンドレアに突貫する。石畳の道を削りながら前傾姿勢で飛び込むと、騎兵槍を持つ左腕を脇に絞めて固定させた。
「まだ戦おうというの!? 本当に蛮族は無意味な事をするのね!」
アンドレアは翼の先から三色の羽を抜き出すと、タイサに狙いを定める。
だが、タイサは速度を落とさず、アンドレアの左側面を通過した。
「何のつもり!」
回り込もうというのか。アンドレアは本能的に左を振り返るが、その視界の隅に一人の騎士の姿が入り込む。
「隊長は、私にあなたの相手をさせるつもりなんです」
エコーは既に腰深く溜め込んだ細い剣をアンドレアに向かって解き放った。
シドリーはタイサの言葉を聞き、その意味を理解する。
「どうやら、貴様とだけ戦い続ける訳にはいかないようだ」
ベリアルの炎の剣、シドリーの白銀の斧が噛み合っている中、彼女は敢えて力を緩め、大きく後退した。
「………ぬっ」
言葉数の少ないベリアルが僅かに前に前のめりになって体勢を崩す。
シドリーはその隙を狙って持っていた右手の斧を振り上げ、そして放つ。
だが、ベリアルは彼女の動きを察知し、体勢を崩しつつも体を捻り、回転しながら迫る斧を後方へと送り過ごす。
「………無駄だったな」
「「いや、無駄ではない」」
武器を失ったシドリーが不敵な笑みを浮かべ、さらにもう一人の声がベリアルの背後から聞こえてくる。
瞬間。ベリアルは鎧ごと地面に叩き潰される。
叩き潰したのはシドリーと同じ白銀の斧。そしてそれを握っていたタイサだった。
「良い連携だ」
タイサが満足そうに、シドリーの足元に向かって斧を投げ返す。
石畳に刺さった白銀の斧をシドリーが掴み直すと、それを肩に担いで頬を緩ませながら顎を持ち上げた。
「魔王様、お代わりはいかがですか?」
「ああ、いただこう」
互いに向き合っていたタイサとシドリーは、すれ違うように走り出した。
「失敬」「八頸」
タイサは大きく飛び上がり、左盾でシドリーの背後に飛びかかってきたマルコシアスを、右の斧で腹の部分でナベリウスの頭を叩きつける。同時にシドリーは、タイサを背後から炎の剣を振り上げて狙っていたベリアルに掌底を当て、一気に魔力を送り込んだ。
ベリアルは体内の魔力暴走に負けて鎧を激しく砕かれ、さらに腰から上の炎の体が激しく吹き飛ぶ。空しく下半身だけになったベリアルの炎は、そのまま石畳の上に零れ落ち、地面に落ちた順に炎が消え、下半身の鎧だけが残った。
「凄いや! さすがは魔王様の親衛隊の子孫と謂われただけはあるね!」
シドリーとタイサの足元が暗くなる。二人は頭上を見上げると、即座にその場から飛びのける。
巨大な何かが地面に降り立った。その重量から着地により石畳が砕け、細かい破片と共に周囲に風を巻き起こした。




