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Lost19 二人の魔王  作者: JHST
第九章 決戦
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⑧強敵からは逃げられない

「何の音だ!?」

 大爆発を凌いだタイサが振り返り、煙が立つ東へと顔を向ける。煙は茶色と白がそれぞれ固まったように集まりながら、空の雲と同化していく。

 色からして火事ではない。タイサがエコーに視線を向けると、彼女は広場で円陣を組んでいるボーマ達を確認する。

 そこにイベロスとブエルの姿がなかった。


「魔王様!」

 東の大通りから、ブエルに跨ったイベロスが戻り、慌てて何度も声を上げている。

「東門から奇襲です!」

 イベロスが必死に戻ってくる背後から、二匹の猛獣が追いかけてきた。

「だ、誰かぁ!」

 全力で走っているのはブエルなのだが、イベロスはまるで自分が必死になっているように息を切らし、追いつこうとする猛獣との距離を見ながら叫ぶ。


「旦那! こっちですぜ!」

「援護します!」

 ボーマが大鉄球を持ち上げ、カエデも弓を構えた。

「ちょ、ちょっと君達! うひゃぁ!」

 戦う力のないイベロスは両肩を縮め、自分の両隣を抜けていく黒い塊と光る矢の間をブエルと共に飛び込んだ。

 二人が放った攻撃は、二匹の猛獣に避けられるも、大きく速度を落とさせる。二匹は広場の入口で止まると、前傾姿勢を維持しながら低い音で唸り、空気を振動させる。


「………ナベリウスにマルコシアス。どちらもブエルと同じく、言葉は話せずとも77柱として扱われている者達です」

 広場に到着したイベロスが下顎まで落ちてきた汗を拭い、合流出来たタイサ達に説明する。

 灰色の毛並みに黒い線の毛が模様をつくる巨大な犬。模様も不気味だが、それ以上に犬の頭と尾が三匹分もある方が異様であった。マルコシアスと呼ばれた猛獣も、頭こそ一つだが、その造りは狼を基本に、背中に鷲の翼、尾は蛇の頭と、こちらも負けずに色々な動物の部位が生えている。

 そして、地面を揺らしながら青い巨人が東の大通りの石畳を砕きながら遅れて到着する。

 イベロスは苦虫を噛んだ表情で城壁と同じ高さの巨人を見上げた。

「ハイオーガのロノウェイ………彼まで投入したというのか」

 鉄鎧と盾で身を固めたロノウェイは背中から一本の棍棒、既に塔と呼んでも差し支えない獲物を抜き出すと、軽く横に振るい数軒分の家屋を粉砕させる。


「………おぃおぃ。そいつぁ、反則だろうよ」

 以前、アリアスの街で戦ったアロクスより二回り以上大きい体に、タイサは引きつかせながら笑うしかなかった。


「おい、ロノウェイ。あまり派手に壊すなよ。僕達も怪我するだろう?」

 崩壊した建物、その瓦礫から瓦礫へと飛び移りながら、大きな爬虫類に乗った少年が唇を尖らせて巨人に向かって小言を放つ。

 少年自体は黒いローブとマント姿、白い短髪と周囲の者達と比べれば、どこにでもいる十五歳前後の姿をしていた。だが、彼がまたがっている生物は、地面に四本の足をつけた角の生えた巨大な蜥蜴であり、様々なお伽噺に出てくる『竜』と呼ばれる存在であった。

「竜使いのヴォラークです。年齢こそ若いですが、最年少で77柱になった実力者です」

 イベロスが少年の名前を呟く。

 奇襲してきた彼らも全員77柱に連なる者達。これで相手の人数の方が上回った事になる。


「隊長………」

 エコーがタイサと背中合わせになり、小声で指示を求める。

 明らかに不利。誰がこの作戦を考えたのかは分からないが、初めから自軍の幹部級を全力で投入してくる思い切りの良さに、タイサは敵ながら見事と思うしかなかった。しかも序盤に投入する人数を減らし、相手に退却する選択肢を潰させている。それもまた有効と言わざるを得ない。

 つまるところ、タイサ達は逃げ場を失ったのである。

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