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Lost19 二人の魔王  作者: JHST
第九章 決戦
72/115

⑤生き残るのは誰か

「バルバトス。全速前進」

「リョウカイ」

 タイサが肩幅に足を広げ、さらに膝を曲げて前屈みになると、両足の左右から複数の銀の車輪が地面を削り、最大速度で走る馬と同じ初速を叩き出した。

「行くぞぉぉぉおぬらあぁぁ!」

 速度を上げながらタイサは右手の斧を肩に担ぎ、左手の騎兵槍(ランス)を腰深くに構えて突撃する。

 

 それを見たアンドレアが目を大きくさせて頬を緩ませた。

「フルフルから聞かされていましたが、どこまでも本当に愚かな。我らが魔王軍77柱と知ってもなお刃向かうのですね………よろしい、魔王軍77柱が1柱、アンドレアが華麗にお相手しましょう」

 アンドレアは踵で地面を前に蹴ると、突撃したタイサの騎兵槍(ランス)を容易く躱し、そのまま止まれないタイサの背後を見納めだと憐れんだ目で見つめる。

「その程度の速さで直線状の攻撃など………むっ!?」

 アンドレアは背後の気配を察知し、すぐさま振り返った。

「直線状の攻撃。その続きは何ですか?」

 途中までタイサの鎧に掴まって移動していたエコーが手を放し、後から遅れるようにアンドレアの背後に攻め寄っていた。


 放たれる四連突き。エコーの小さな口から吐かれる短い息に合わせて、極細の刺突剣であるレイリーピアが四つの点となってアンドレアの両腕、胸、腹部を狙った。

「蛮族風情が………ワタシの美しい羽を!」

 咄嗟に両手で前面を防ぐアンドレアから四枚の青い羽が放たれ、エコーの突きと向かい合う。剣先は青い羽が淡い障壁を放って彼女の突きと相殺すると、羽もまた役目を終えて空気中に溶け崩れるように霧散した。

「………羽が、盾代わりに」

 エコーは予想外の防ぎ方に驚きつつも、その場に留まらず、即座に後方へと三度左右斜めに跳びながら鳥人間との距離を確保する。

「彼女の羽には高位術士の防御魔法と攻撃魔法が蓄えられています!」

 ブエルに乗るイベロスが後退してきたエコーを迎え入れ、アンドレアの能力を説明する。


 その瞬間、他の77柱達が一斉に動き出した。

 アンドレアが叫ぶ。

「作戦通り、魔王を語る偽物を先に滅しなさい! 他は後でいいわ!」

 その指示に従い、長身の男のエリゴールが炎の槍を生み出して駈け出した。

「おっと、あからさまに後回しにされるのは………結構むかつくぜ」

 エリゴールの側面から、地面の石の破片を共にしながらアモンが右足で蹴りを放っていた。


「………兄者!」

 赤い長髪のバディンが援護しようと足に炎を纏わせて膝を曲げる。だが、その動きを止めるかのように赤い鎖のついた白銀の斧が風を運び、彼の鼻を擦りつける。

「さっきは良い蹴りを見せてもらったぜ。なぁ………もう一度俺に見せてくれないか?」

 白と黒のメイド服、ヒョウ柄の肌をもつオセが、右腕に鎖を巻いたままバディンの前に立ちはだかった。


「フォルカル………辛いかもしれませんが」

 エコーと別れ、イベロスが前に立つフォルカルに声をかける。だが彼はその意を悟ったのか、額のゴーグルを降ろすと表情を隠し、翼を大きく左右に広げた。

「分かっている。弟の不始末は俺が付けるさ」

 背中のタネガシマを抜き出すと、それを回転させて脇に構える。そして、屋根の上で見降ろして来る弟のシャックスに視線を向け、直上へと飛び上がった。


「ならば、ベリアルは私が相手をしよう」

 シドリーが深い笑みを作り、炎が溢れる騎士と向き合う。

 イベロスはカエデとブエルに密集しながら立ち回るように指示を出す。そして必要に応じて援護と指示が出せるように集中し、ボーマにも同様に声をかけて広場の中心で円陣を組んだ。


 集合していただけの広場は、この瞬間に少数精鋭同士による激戦区へと姿を変えた。

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