③到着
―――翌朝。
干し肉と水を腹に入れたタイサ達は、再び馬車を走らせる。
そして三十分もしない内に、上空にバードマンらしき羽の影が、曇りかけた空の上を旋回している事に気が付く。
予想通り、魔王軍に補足された。白と灰色の雲との間で揺れ動く黒い影が最後にもう一度回ると、馬車の進む方向と同じ道を飛んでいった。
「どうやら見つかったようですね。恐らく、街まで報告に向かったんでしょうや」
ボーマが空を覗くのを諦め、前を向き直す。
だがタイサは特に驚く事も新しく指示する事もなく、荷台に積んできた木箱に手を入れ、装備を確認し続けた。
「今さら驚く事もないだろう。精々穏便に出迎えてくれる事を祈っておこう」
箱の中から自分の脛当てを取り出すと、タイサは片足を上げて片方ずつ足に通す。
「各自、戦闘準備。エコーは先に装備を整え、終わり次第、ボーマと手綱を代 わってくれ」
「「了解」」
両足に脛当てを履いたタイサは、王国騎士団の騎士が扱う物と同じ大盾を左手に、片手剣を腰のベルトに装着する。そして最後に、黒い剣を封じたランスを背中に背負った。
既に身に付けていた呪いの鎧は、反射を許さない漆黒の文様だったが、タイサが身に付けた途端に安価な鉄鎧と同じように曇った銀色の鎧に姿を変えている。持ち主によって色を変えるのではないか。鎧を手に取った後に呟いたフォースィの声が、未だに頭の中に残っていた。
「隊長、街の城壁が見えてきました」
装備を整えたエコーが馬の手綱を代わり、正面に見えてきた景色をありのままに報告する。
ゲンテの街は既に持ち主が何度も変わっている。一度目は魔王軍が、二度目にデル達が奪還。そして残存兵力から防衛できないとデル達が放棄した街を、ブレイダスの戦いから後退した魔王軍が再び占領して今に至る。
城壁の前で馬車が停められる。
「それじゃぁ、行ってくる」
「お気をつけて、隊長」「隊長、頑張って下さいよ!」
エコーとボーマの両極端の表情に顔を緩めたタイサは馬車を降り、ゲンテの街の城壁を見上げた。
そして、瞬きをして表情をつくり直す。
二階建ての民家よりも高く積まれた城壁は、多くはないもののゴブリンらしき亜人達の姿が見え、馬車やタイサを指差し、何かを伝え合っている。
上空では変わらず複数のバードマンが警戒や巡回のために旋回していた。
ここまでは、予想の範囲内。タイサは一歩足を踏み出す。




