⑤真実 -治療という名の呪い-
「………病気にかかったのは兄貴の方だよ」
「っ!?」
タイサの息が詰まる。
喉が上から下へと冷えていき、その冷たさは心臓にまで届くような錯覚に陥る。
「俺には………その記憶がない」
一瞬、全員が示し合わせている可能性すら疑いたくなった。だが、話の先が見えていないシドリー達と、複雑な表情を作るエコー達の表情から。それが決して冗談ではない事を語っている。
「その理由は、私にも分からない。どうして兄貴の記憶が私の記憶と逆になっているのか………でも、本当なんだよ」
「カエデは、ずっとそれを―――」
黙っていたのか。タイサは少しずつ沸き上がってくる感情を抑えながら、最後の一言を堪えた。そして妹の話を最後まで聞くべきだと何度も心に唱え、腰の横で手が白くなるまで強く握りしめる。
「いきなり言っても信じてもらえないと思ったし、第一言っても仕方がないと思っていたんだ。ほら、本当の事を言っても借金が減る訳でもないし………むしろ兄貴が自分のせいで借金をつくったって知ったら………兄貴が家から出て行くような気がして」
「そんなこ事………」
無いとは言い切れなかった。
人に迷惑をかけないようにと必要以上に考えていた昔の自分ならば、その選択肢はあったかもしれない。タイサは喉まで出かかっていた言葉と感情を抑え、近い天井を遠い目で見上げながら強く言葉を飲み込んだ。
「………話を続けてくれ」
何度か瞬きを繰り返して表情を作り直し、タイサは口を強く閉じる。
カエデは、治療しに来た神官が本当に城の神官だったのか。その疑問を昔からもっていたと話し始めた。
「もしも城の神官が治療できた病なら、もっと助かった人がいてもいいはず。少なくとも不治の病なんて言葉では広まらないよ」
当時は多くの貴族や豪商の家族も犠牲になっていた。お金で解決できるのならば、貴族や商人の多くは生き残り、貧しい平民ばかりが死んでいたはずだった。
だがカエデは密かにギュードに依頼し、過去の文献でその事実がなかった事、当時の神官でそれ程の力を持っていた者がいなかった事について話す。
「ここからは私の推測なんだけど………」
一言断った上で、カエデは自分なりの結論を口にした。
「兄貴が受けた治療って………実はある種の呪いをかけられたんじゃないかって思うの」
病を跳ねのける程の呪い。その結果、病だけでなくあらゆる攻撃や状態異常を受け付けず、呪いを既に受けている以上、それ以下の呪いを受ける事もない。
「仮に呪いであれば、黒の剣などの武具を使いこなせる理由としては一理ありますね」
イベロスが顎に手を当てて一度だけ頷く。
「ですが、それと魔王様がどのように繋がるのかが未だに見えません。カエデさん、続きを話してもらえますか?」
カエデは『はい』と頷き、彼の問いに答えようとする。
「シドリーさん達からその黒い剣の正体を聞いて、もしかしてって思ったの。兄貴、魔王復活の言い伝え、覚えてる?」
「え、えぇっと……世界が大変な時に、黒い霧とか感情とかを糧に魔王が復活する………とか何とか」
「世界の存亡の際、それに抗う力無き時、漆黒の剣を持つ者によって王が再び現れる。全ての感情を糧とし、黒き霧を力とし、全てを捨てる覚悟を証明せよ、だ」
うろ覚えだったタイサの横で、シドリーが代わりに答えた。




