④真実 -宝物庫の密談-
「階段………地下か?」
「ああ。領主の宝物庫に続いている」
シドリーがタイサの問いに答えると、ゆっくりと絨毯から石畳に変わった階段を下り始める。
一段下がる度に湿気とカビ臭い匂いが強まっていくが、比例して気温は下がっていく。通路は一本道で、等間隔で壁にかけられた魔導式のランプが弱々しく周囲を照らしている。
その終点。宝物庫を守る赤い扉の前で、片眼鏡の兎がシドリー達を待っていた。
「宜しいですか?」
イベロスは懐から鍵の束がまとまった金属の輪に指を通し、そこから一本の鍵を選ぶと鍵穴に通した。
「魔王様に関する事であれば、彼の知識が必要になる」
シドリーはエコーとカエデに説明するように言葉を漏らすと、そのままイベロスを宝物庫へと招き入れる。
最後にタイサとエコーが部屋に入ると、そこは地方領主とは思えない程の金品が積まれていた。
「街にある金品の類の殆どを、ここに保管している」
金貨、銀貨、彫刻、絵画、果ては細工の細かい武具までもが、雑ではあったが最低限の保管方法で部屋中に置かれている。街に放置された財産をそのままにしておくには、目のやり場に困るからとシドリーが細くする。
「それで、魔王様に関するかもしれない話とは何だ?」
「………は?」
振り返るシドリーの言葉に、タイサが高い声を上げた。
「シドリーは何も聞かされていないのか?」
思わず聞いてしまった。
シドリーは怪訝な表情のまま、エコーとカエデから財宝がある場所に案内してくれれば、魔王について知っている事を話すと言われていたと説明する。
「カエデ? エコー?」
タイサは二人を濁った眼で見つめた。
カエデが動揺しながらも、慌てて拳を胸の前で握る。
「………たぶん、兄貴の記憶や体質の事と魔王とは少なからず関係しているんだと思う。だけど、私達だけではどうしても判断できなくて」
「私もフォースィさんから聞いた話と照らし合わせると、まんざら関係がないとは言い切れないかと思っています」
エコーが続く。
いきなり抽象的な話になり、タイサとシドリーの眉が同じ角度になる。
「まぁまぁ、取り敢えず最後まで聞いてみましょう」
イベロスが苦笑いしながら、小さく手を広げて場を制止させ、ゆっくりと互いに伝わるように話していこうと提案した。
まず、エコーがタイサの無敵ともいえる頑丈さが、実は後天的なものではないかと話を始める。それは風邪や怪我を経験したというタイサの小さい頃の記憶と矛盾している事、膨大な借金をしてからが一つの境界線となっている事であった。
「兄貴は、不治の流行病にかかったのが私だと思っているんだけど、本当は逆なんだ」
「………おいおい。まさか」
カエデの苦しそうな表情に、タイサから乾いた笑いが思わず漏れ出る。
彼女は小さく頷いて見せると、胸元を強く握りながら声を絞り出した。




