⑨特注品
「魔王軍77柱に何度も入るように打診されていたのに、一向に首を縦に振らない頑固者なのさ」
「いやいや、儂はただのジジイだからな」
アモンの呆れた声に、オヤジさんと呼ばれる老人は座ったまま振り返ると、タイサ達に向かって顔の前で手を振り、照れながらも面倒な顔をつくる。
小柄ではあるが、シャツと首にかけたタオル以外から見える上半身は細くも無駄のない筋肉で覆われており、ジジイと自称する割に白いバンダナから見える白髪も多く、歯も全て揃って笑っていた。
「話はシドリーから聞いているよ。お前さんが『作られた魔王』様かい?」
魔王軍の司令官を『ちゃん』呼ばわりする老人に、タイサは今更ながらに目の前の老人の凄みを感じ、一筋の汗を流しながら、改めて老人と握手を交わす。
「ええ。先日は無理な装備を頼んで済みませんでした」
「………見させてもらったよ。あの娘の力に、それなりにも耐えたんだ。即席にしちゃぁ、まずまずさ」
それが、魔王を名乗る事にしたタイサ自身か、それとも急ごしらえで用意した装備の事か。彼の伝説を聞いた後で問いかけるのも憚れ、タイサは聞くのを躊躇った。
「それで? 今回は何を作れば良いんじゃ?」
時間的な余裕はない。明日には出撃となる以上、アモン達のような強力な武具は求められない。
それは求める側も作る側も分かっていた。
その上で、タイサは頭で思い浮かべている言葉を並べる。
「既存の防具を組み合わせたもので良い。正面の装甲を極めたものが欲しい」
「………随分と抽象的じゃな。もう少し具体的な強度というか、その理由まで教えてくれぬか?」
分かったと簡単に答えて作れるものではない。オヤジさんは膝の上で頬杖をついて、タイサをたしなめる。
タイサもそれはそうだと、結論だけだった自分の言葉に謝りを添えて、再度言い直した。
「正面から敵陣に突撃した際、タネガシマや魔法攻撃に耐えられる強度が欲しい」
せめて敵陣に到達できるまでで良いと、タイサは付け加える。
「耐えるも何も、お前はそのままでも問題ないだろう?」
後ろで話を聞いていたアモンが、壁に寄りかかったまま話に入ってきた。
「アモン、コトバヅカイ」
「わぁってるよ。外出たら直すって。だが、ここなら良いんだろう?」
大きな耳に小指を入れ、知っているし、聞き飽きたとアモンが鼻頭を上げる。
「あんたはうちの司令官の攻撃にも耐えたんだ。タネガシマなんか、訳ないだろう」
「まぁ、俺だけなら………な」
一人で突貫するならば、いつも通りの装備で問題はない。だが他にも追随して飛び込む仲間達がいる。自分だけ無事であれば良いという訳にはいかなかった。




