⑧魔王誕生
今はシドリー達が信じ、頼ろうとしてきた存在を演じ切る事だけに、タイサは集中する。
「ブエルはいるか!?」
魔王軍77柱の一柱。黄金獅子の獣の名をタイサが叫ぶ。
これは賭けであった。
だが、タイサはこの状況、そしてシドリーの言葉を聞いた彼らの覚悟を信じる事にした。
すぐに咆哮が聞こえ、ブエルは魔物達の群れの中から大通りへと飛び込んできた。
そしてタイサの横で尾を振り命令を待つ。
「………ありがとう」
タイサは小さな声でブエルに感謝すると、すぐに声を変え、命令を与えた。
「シドリーを回収して治療を………それとアモンも見つけてやってくれ」
タイサの指示に、ブエルは小さく吠えると大穴を飛び越えると、気絶したシドリーを咥え、大通りから消えていった。
「………まさか、そんな」
選ばれた存在、栄えある魔王軍77柱が蛮族と蔑んできた人間の命令を聞いている。目の前で起きた事実に、フルフルは何も動けずにいた。
そんな彼女の引きつった表情を見て、タイサは頬を緩ませる。
「どうした? まだ理解が追い付かないか? それとも余が名乗らなければ分からないか!?」
タイサの声が低くなっていく。魔王とはどんな存在か、自分の中で知っている物語、彼女達が望み、伝えられてきた物語、それらを都合よく合わせながら頭と心の中で吟味し、最後に小さく咳払いする。
「………余が、魔王である」
一世一代のハッタリだった。
「全員、何をしている。魔王様の御前である、頭を下げよ」
タイサの横から意識を取り戻したイベロスが、全員に声をかけながら現れた。服は汚れ、顔にも土を擦った跡が残っていたが、彼はタイサの真横で片膝をつき、臣下の礼をとった。
「おかえりなさいませ、魔王様。ご復活おめでとうございます」
「………うむ。どうやら要らぬ苦労を掛けていたようだな」
タイサも話を合わせるように、言葉を並べる。
それを見た魔物達が、一斉に頭を下げ始めた。元々、シドリーとの戦いで決着がついており、タイサにシドリーに匹敵する力がある事を誰もが認めた所でもあった為、イベロスの指示に逆らう者は皆無だった。
エコーやカエデも、話を合わせるように膝をつき、本人の性格とは真逆の役を演じている事に複雑な思いを抱えつつも、この局面を無事に乗り越えられる事を祈るしかなかった。




