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Lost19 二人の魔王  作者: JHST
第六章 人魔決闘
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⑦黒の剣、再び

「………人間? 蛮族の貴様がか?」

「いやぁ。余りにも酷い声が耳元でキャンキャン騒ぐものだからな。耳障り過ぎて、思わず石を投げてしまった、スマンな。許してくれぃ」

 まるで肩がぶつかった程度の謝り方で、タイサは顔の前で手を立てて見せた。


「死ね」

解放(リリース)

 一瞬にして不愉快な表情に変移したフルフルが、顔と同じくらいの大きさの放電した球体をタイサに投げ放つ。同時に、タイサは持っていた騎兵槍(ランス)から、一本の黒い剣を引き抜いた。


 世界が黒い剣を中心に、白と黒の二色のみとなる。あらゆる事象が、コマ送りのように遅くなり、あらゆる生物を委縮させる恐怖が等しく配られる。

 タイサは迫る雷球を、黒の剣で軽く縦に振り、造作もなく両断した。

 二等分された雷球は、タイサの両側面で黒い霧と化して霧散し、剣に吸い込まれていく。


 そして世界の色が戻る。

 ここにいる全員が、今目の前で起きた事を理解できなかった。


「………ふふふ」

 シドリーが最初に小さく笑う。

 彼女は放電によって焦げた体のまま肩を震わせ、汚れた顔でタイサを見上げた。そしてタイサが小さく頷く顔を見るや、安堵に近い表情で確信する。

「フルフル………お前の言う『()()()』として、最期に教えてやろう」

「シドっち!?」

 まだ理解が追い付いていないフルフルが、今にも力尽きそうな彼女に慌てて顔を向けた。


「今貴様が、蛮族だと罵った人間は、我々が二百年追い求めてきた御方だ。貴様がどんなに逆立ちしても敵う訳がない。それどころか………殺されるぞ?」

 シドリーは精一杯の脅し文句を一列に並べる。

 二百年。その言葉に、フルフルはある名称を思い浮かべる。

「………シドっちは、あれが魔王様だというの!?」

「あらゆる光を吸い込む黒き剣を持った人間。それ以外の表現に、何があるという………のだ」

 シドリーはその場で倒れ、気を失った。


「………そんな、あり得ない」

 フルフルはタイサに相対し、眉を潜ませたまま睨みつけた。


「試してみるか?」

 タイサは黒い剣を自分の前の地面に突き立て、両手を柄の上に置く。

 その時、タイサは自分の鎧が黒くなっていた事に気が付いた。市販された鉄鎧の様な褪せた銀色から、この鎧を初めて目にした時のような、光の反射を許さない純粋な黒へと変わっていた。

 加えて、これまで逃げ出す程に振動していた剣が、全く振動せず、むしろタイサの手に吸い付くように馴染んでいた。剣の重さは殆ど感じられず、まるで木の枝を握っている感覚に近かった。

 何かが変わったのだろう。タイサはそれ以上考えないようにした。

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