⑥新生魔王軍
「テメェがここにいるって事は、ついに到着したって事か!?」
アモンの体毛が放電によって逆立っている。だが、当のフルフルは動じる様子もなく、振り下ろした剣を再度動かす事もなく、目の前で叫ぶアモンを眺めながら、子どものように笑い始めた。
「そうだよ。一応君達にも機会を与えるようにって言われたから、ワザと遅れてきてみたけれど………どうやら、あまり成果は出なかったようだね」
そう言ってフルフルは、振り下ろした左手の人差し指と中指の間を左右に開く。すると、地面に突き刺さっていた雷剣は、彼女の指の動きに合わせるように二つ割れ、地面に対して水平に家を斬り裂きながらアモンの体を狙った。
「そしてその先方が、よっと! お前って訳か!? 今まで色々な奴らを利用して、都合が悪くなれば裏切ってきたお前が! 最後に俺達も裏切った、あの泣き虫根暗女が、今じゃぁ新生派のお使い係になるなんてな!」
アモンが体を捻り、真横に迫る雷剣に対して円を描いて飛び越える。
「あぁ、もう! 本当に言葉だけはムカツク犬っころだよ!」
フルフルは開いていた二本の指を再び合わせ、手首を上から下へと曲げた。分かれていた雷剣は、彼女の指によって合流し、一本の剣となってアモンの直上へと振り下ろされた。
「糞がっ!」
アモンは咄嗟に籠手のある両腕で防ごうとしたが、捌き切れずに後方に勢い良く弾かれ、家屋を次々と貫くように弾かれた。
タイサは二人の会話を聞きながら、状況を概ね理解する。
フルフルは手についた水滴を払うようにして腕を振り、雷剣を消失させると、家屋の下敷きとなったアモンを見て声高く笑い、体を震わせていた。
その様子を、タイサは眉間にしわを寄せ、目を細める。
高飛車な笑いを続ける彼女の横顔に、小石が当たったのはこの時だった。
「………何、今のは」
フルフルは音を立てて地面に落ちた小石、爪程の大きさのものが自分の足元に落ちて転がる様を見て、初めて自分に石が投げられた事を理解した。
「石? この魔王軍77柱の私に、石を投げたの?」
手で頬に触れると、指先に砂が付着する。
フルフルはシドリーへの攻撃を止めると、ゆっくりと周囲を見渡した。
「誰!? この私に石を投げた愚か者は!? 例え同胞と言えど、消し炭にしてあげるわ!」
「うるせぇなぁ………そんなの、目の前の俺しかいないだろう?」
フルフルは正面を向き直すと、騎兵槍を肩に担ぐタイサが、自分に親指を向けていた。




