⑤幼馴染を名乗る敵
「………おっと、シドっち大丈夫?」
シドリーの体を一人の女性が支えた。
黒と紫色の中間、毒々しい色の軽鎧を纏い、蝙蝠の羽を背中から生やした黒髪の女性。いやそれを悪魔と呼ぶべきか。腕と太ももに露出が多い彼女は、羽を動かしながら倒れそうになったシドリーを後ろから優しく支えていた。
そして地面に降り立つと膝裏まであろう長い髪を後ろへ払う。
シドリーが目を開けると、疲労の中でも驚く彼女の顔が見て取れた。
「………フルフルか? 貴様、何故ここにいる!?」
既に少ない力で両肩を振り払って抜けようとする彼女に、フルフルと呼ばれた悪魔は、少女とも女性とも呼べる中間的な細い体で、傷ついたシドリーの肩を押さえつける。
「うぅ、うがあぁぁぁ!」
フルフルの両手から電気が流される。シドリーの体は電流によって筋肉が無条件に反応し、無理矢理のけ反った。
「やだなぁ、シドっち。幼馴染にそんなにつれなくしないでよぉ。心配で本国から急いで追いかけに来たんだからさぁ?」
フルフルの声は友人を心配する声そのものであったが、彼女の目を細めて笑う表情は氷であり、深みと恐怖を振り撒く微笑みであった。
タイサには状況が読み込めなかった。少なくとも、今までの戦いにおいて、彼女の存在を見た事がない。
だが、味方でもない。
タイサの直感がそう語ってくる。
「勝手に軍を動かして………気が付けば、こぉんな所で蛮族と戦ってるんだもん。ビックリしちゃった」
電流は止まらない。
シドリーは口と目を開け、防ぎようのない電流に身をさらし続けていた。
「フルフル! てめぇぇぇ!」
怒声を上げながらアモンが大通りに飛び出た。彼は一度だけ地面を蹴ると、周囲の砂を撒き上げる速さで悪魔に拳を振り上げる。
「おや、そこにいるのは負け犬君じゃ、あーりませんか」
フルフルが左手をかざすと、紫と黒い放電が手を包み、一振り刀身を生み出した。
「サンダーブレイド」
大通りを横切るほどの長さまで生長した巨大な刀身。彼女はそれを頭の後ろから肘を伸ばし、そして振り降ろした。
アモンが両手の手甲から赤黒い爪を伸ばして炎を生み出す。そしてその炎と手甲で地面に突き刺さろうとする巨大な一撃を逸らすように受け流した。あり得ない程の長さまで育った雷剣は、アモンの後ろにある家の壁を斜めに溶かしながら縦に斬り裂いた。




