②軍務か姉妹か
「仮にその伝承が本だと仮定しても、この剣は黒い霧をまだまだ吸い続けている。そして十分に集めたとしても。誰が犠牲になるかも決まっていないが………その点についてはどうするつもりですか?」
タイサは相手から全てを聞き出そうと尋ね続けた。
「そもそもの話、この剣を扱う事ができなければ意味がない」
剣を抜いただけでも、全ての恐怖が生きとし生けるものに襲い掛かり、その動きを止める。身に付けている装備ですら悉く黒い霧に変わる。見た事はないが、耐性のない人間が触れれば、自分自身が黒い霧に変換される事くらいは容易く想像できる。
タイサは自分の様に、耐性が高い者ならば耐えられるかもしれないと、その可能性を伝えた。
「………私が扱ってみるつもりだ」
「シドリー姉さん!?」
勢いよくオセが立ち上がった。
姉のシドリーは、それを静止させるように手を前に出し、妹にこれ以上の発言を止めさせる。
「この魔王軍の司令官は私だ。この中では最も力がある………もし私でも扱えないのであれば、ここにいる者達でも扱う事はできないだろう」
「………良いのですか? 失敗すればあなた自身が霧散するかもしれませんよ」
タイサは最も近くで見て来た者として彼女に確認する。
だがシドリーの決意は揺るがなかった。
彼女は首を左右に振り、堂々と、しかし表情を柔らかくさせて話す。
「決して無駄死にではない。例え私が黒い霧となっても、その力は魔王様復活の為に使われる。臣下として、これ以上嬉しい死に方はないだろう」
自分程の存在が吸収されれば、条件の一つを満たせるかもしれない。シドリーはそこまで言い切った。
そしてオセに顔を向けた。
その顔は司令官としてではなく、不出来な妹を見る姉の顔であった。
「すまんな。お前にはまだ話していなかった」
「まだって事は………」
オセが慌てて周囲を見ると、全員が口を閉ざしていた。
アモンやバルバトスは腕を組んだまま沈黙し続けている。バードマンは目を軽く擦るとゴーグルをかけて、表情そのものを隠した。
「全員には既に話を通している。私に万が一の事があれば、イベロスが代わりに皆の指揮を執る。何も問題はない」
「そういう事じゃねぇよ!」
オセは感情を剥き出して、手前のテーブルを叩き壊した。
「落ち着け。これは姉妹の問題ではない。魔王軍の、ひいては私達の国の未来がかかっているのだ。何度も言っているが、お前も77柱ならば使い分けるべきだ」
「魔王軍の前に、姉妹の問題だよ! もしここで姉さんを失ったら、俺は………一人になっちまうじゃあねぇか!」
既に四姉妹の半分が戦死している事は、タイサ達も知っている。それが自分達人間の手によるものであり、タイサ達は複雑な気分で姉妹の言い合いを見つめていた。




