③夜営
「しかし、進まなければ街には着けません」と、エコー。
「だが、見つかれば、敵が来るかもしれないぜ?」
ボーマも負けじと正論を吐く。
馬車を隠して歩いても、草原に身を隠しながら進んでも、いつかはどこかで発見される。ならばと、タイサはこのまま馬車で進む事を決める。
「逆に考えよう。むしろ上空を警戒しないで進む方が、相手が民間人と誤解する可能性が残る。幸い、空からでも、幌の中までは分からないからな」
そしてゲンテの街に到着次第、タイサは自分が話に赴くと二人に伝えた。
「それは余りにも危険です!」
「だが、三人で行っても解決しないだろう? ならば、頑丈な俺だけが話をした方が、むしろ安全だ」
エコーの言葉に、タイサは自分の身の安全であっても、他人事に近く、まるで悟ったかの様に落ち着いて説明する。
「万が一戦う事になれば、後方から援護が出来るという利点もある………そう心配するな、エコー。俺だって一人で魔王軍全てを相手するつもりは毛頭ないし、あの剣を使う事もなるべく避けるつもりだ」
呪われた黒の剣に、ブレイダスで発見された呪われた鎧。タイサの身に何も変化はないが、一度戦闘になれば何が起きるか分からない。タイサは簡単に手の内は見せないと、自分に言い聞かせるように話す。
「俺なら大丈夫だ」
「………はい」
不安が拭えない彼女に、タイサは肩をすくめ、眉を上げた。そして二人の顔色を見てから頷き、この後の見張りの順番を伝える。
「最初は俺がやる。次はエコー、最後の夜明けにボーマが担当する。交代時間は二時間半とする」
「「了解」」
指示を聞き終えたエコーとボーマは、早速夜営の準備に取りかかった。とはいえ、火を起こす事は出来ない為、干し芋と薫製肉をパンで挟んだ簡単な夜食と寝袋を用意するだけで事足りる。
そして、食事を終えた三人は、予定通りに休息と見張りに分かれた。最初の当番のタイサは、馬車の荷台を点検し、車輪や軸に問題がない事を確認する。
今夜は薪の番はない。焚き火の暖かさから来る睡魔と戦わなくて済むが、代わりに寒さと戦う事になった。
「隊長、毛布です」
エコーが荷馬車から顔を出す。
「ああ、済まない。だが、眠ると体温が下がる。ボーマはあの体で必要ないだろうが、その毛布はエコーが使うといい」
タイサは片手を小さく振って彼女に使うように諭す。渡そうとした手前、やや渋っていたエコーも結果として使う羽目になり、すまなそうな顔を作りながら幌の中に沈んでいった。
タイサは一人になった。
十分、二十分と無為な時間を過ごす。明かりもなく、薄暗い雲の合間から時折見せる夜空の星々と、二つの月の光だけが地面を照らしている。
虫の声も聞こえてこない。
タイサは馬車に体重を預けると、自分の呼吸を唯一の音として過ごし、左右、そして上下に顔を動かしながら時間を潰した。




