⑤シドリー達の真意
「だが、戦いになれば魔物の方が強いのでは? 何故負けたのですか?」
「負けちゃぁいねぇ。こっちから手を引いてやったんだよ」
腕を組んだままのアモンが、タイサの問いに噛みついた。
「アモン」
「わぁってるよ。もう少し我慢するさ」
眼鏡の奥で目を細めるイベロスに諭されると、彼は片手を広げて鼻で笑い、近くにあった椅子を引き寄せて逆向きに座り込む。
「まぁ、概ね彼の言っている通りです。各部族長と話し合い、我々は王国を去る事を決断したのです」
そして死の山と呼ばれる東の山脈を越えた先に新天地を求め、魔物達の国ができたという。
そして二百年。魔物達は人間への復讐を果たそうとする新生派、それに反対する魔王派で意見が分かれてしまったと、初めの話に戻る。
シドリーが続きを引き継ぐ。
「このままでは魔王様が大切されていたウィンフォス王国が滅亡すると考えた我々は、王国が滅びずに、かつ新生派を納得させるだけの成果を模索し、この戦いを実行する事にした」
圧倒的な実力と電撃的な速力をもって王国を攻撃し、魔王軍の存在を誇示させた上で停戦するつもりだった。
「随分と過激な方法を実行したものですね」
事情は理解つつも、タイサは思わず呆れそうになる顔を手で隠した。
戦争にはなるが、敗戦という結果で王国は生き残る。新生派と呼ばれる魔物達は、勝利という形で積年の恨みをある程度晴らしたと呼ぶ事ができる。
一見して筋は通るが、一つ間違えば魔王派が王国を滅ぼす事にも繋がりかねなかった。
「………話し合いという手はなかったのですか?」
エコーが複雑な心境で声を出す。
だが、シドリーは鼻で笑うように彼女の提案を一蹴する。
「我々を蛮族と見なしてきた人間が、対等な関係で交渉に応じるとでも?」
「無理だな。これは時間がかかるとかそういう次元の話じゃないよ、エコー」
タイサが彼女の代わりに答えた。
そもそも、歴史から葬った魔王の存在を認める時点で国家の存亡に関わる内容である。王国としても、簡単に認める訳にはいかない。かといって時間をかければ、新生派の魔王軍が王国を滅ぼしに来る事になる。
タイサには魔王軍の事情が概ね理解できた。
「すんません、質問なんですが」
ボーマが重い腕を挙げた。
「大体の事情は分かりやしたが、話の中に魔王………様の存在が全く出てこないのは何故ですかね? 今の魔王様がどんな方か分かりませんが、正直な話、魔王様が決断すれば一発で収まるんじゃないんですか?」
尤もな質問だった。
シドリーとイベロスが口を閉じ、目を合わせる。




