④二百年の因縁
「シドリー司令官」
タイサが小さく手を挙げた。
「申し訳ないが、順を追って説明して頂きたい。中には言えない事もあるでしょうが、遠回しな表現や結論だけ提示されても、こちらとしては答えようがない」
その言葉にエコーも落ち着きを取り戻し、ばつが悪そうに腰を下ろす。
「司令官。私から説明致しましょう」
兎の紳士が腰を屈める。外見によらず渋い声である。
「初めまして。私は魔王軍の司令官補佐及び参謀を務める、イベロスといいます。早速ですが、まずは我々魔王軍が二派に分かれている所から説明しなければなりません」
それは壮大で複雑な話だった。
魔王軍には魔王の教えを深く守る魔王派と、魔王の教えを尊重しつつも改革を推し進めていく新生派に分かれていた。シドリー達、ここにいる魔王軍は前者にあたる。
「今年の始め、大きな提案が我が国で放たれました。それは、二百年間我々を迫害し、辺境に追いやった人間をどう扱うかというものです………ちなみにタイサ殿。我々が魔王様の下、人間と共存していた時期が存在していた事はご存じですか?」
タイサは魔王が王国によって作られた事、その魔王の名の下、魔物達が集まり魔王軍を結成した事、カデリア王国との戦争で共闘した事を説明した。
「概ねその通りです。では、その後の事からお話しするとしましょう」
イベロスは、カデリア王国との戦争が終わり、領土を併呑したウィンフォス王国は、大陸でも名だたる大国に成長したと語り始める。
王国は魔王軍として参加した部族に、元々住んでいた場所の一部を自治領として認め、さらに技術協力や相互通商を始めた。
「結果として、戦後の我々は技術と経済に力を注いできました。その恩恵は戦争で傷付いた王国を確実に潤わせ、戦争の傷跡すら予想よりも早く復興する事になりました」
だが、時が経つにつれ、問題が生じ始める。
「人間よりも魔物の方が優れているという事実に、お互いが気付いてしまったのです」
どんなに魔物達に力があっても、特別な能力があっても、歴然たる文明から生じる差から、人間側は当初優位を保ってきた。だが、同じ生活水準となった時、力をもつ魔物の方が生まれながらにして優れる事となった。
当時の人間からすれば、努力しても埋められない差は、さぞかし不公平に感じた事だろう。
「気が付けば、王国の経済、技術等において、多くの魔物が主要な位置を占めるようになりました」
「それを人間達は驚異に思い始めた………」
何故魔物達が人間に恨みをもつようになったのか。タイサは次第に理解できた。
つまり人間は魔物を差別し、迫害する事で、自分達の場所を確保しようとしたのである。イベロスはタイサの予想に頷き、ついに人間と魔物が争いに発展する内戦に突入したと語る。




